カカイル

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「いいんだね?」

 綱手の言葉に、イルカは起き上がってみせることで、その意思を示した。


 


「これぐらいので良かったですかー?」

 治療室に巨大な鏡を運び込み、シズネが問う。

(ありがとうございます)

「いえいえ、これぐらいお気になさらずー」

 薄暗い室内であっても、普段は暢気に見えるシズネも忍であるし、イルカの唇を読む。

 そういったところが、この2人──イルカとシズネは良く似ている。
 変な感心をしながら、綱手は促した。

「シズネ。そろそろ始めるよ。イルカもいいね」

「はい」

 声のでないイルカはうなずき、鏡の前に立つ。

 鏡像分身の術には術者の姿を映すものが必要だった。

 戦場では水面や霧、水遁などで代用している。
 だが今は、できるだけチャクラや体力を温存したい。
 だから出来るだけはっきりと、イルカの全身が映りこむほど大きな鏡を用意してもらったのだ。

 イルカは呼吸を整え、意を決して印を組む。
 胸に染み出す血を右手の指になすりつけ、口寄せの術のように鏡面に押し当てた。
 
《鏡像分身の術》

 音もなく、霧散した鏡を挟んで向かい合うように2人のイルカが現れる。
 共に、胸からおびただしい血を流していた。

「シズネ、お前は本体の様子見てな! イルカ、処置するからこっちきな」

 助手の忍医らの手を借り、鏡像分身のイルカが処置台に寝かされる。

 その傷口を見た綱手は、言葉を失った。

 分身はチャクラと術者のイメージによって作られる仮の肉体だからだろう。
 カカシの雷切を受けた傷そのものは半ば塞がっている。
 塞がっているが、内臓はズタズタだった。

 そして臓器や血管は、普通の人間とまったく逆の位置に存在している。

───こいつは、思った以上に厄介だねえ

 思ったが、やらないワケにはいかない。

───あの小僧や、カカシのためだけじゃない

 シズネに支えられながら、自分の分身の左腕を掴んでチャクラを流しつづけるイルカ。

 その姿を見やり、綱手は治療を始めた。

 まず塞がりかけている胸を開き、内臓を再生させる。
 そして血管を繋ぎ、出血を押さえていく。

───火影なみの人徳っていうコイツを死なせたりしたら……

 脳裏に、この里に戻ってからであった人々の顔が浮かぶ。
 
 その誰もが、この中忍が無事で居ることを願い、望んでいるように思えた。

 これまで綱手が失った者の姿が、言葉がダブる。

───アタシは火影を名乗っていられなくなるっ!

 彼らが夢見た火影の名を継いだ以上、綱手は全力で里の者を生かし続ける。

 綱手の処置により、少しずつだがイルカの血は止まっていった。

 けれど、これまで失った血と、処理が終わるまでに失う血の量を考えれば、一刻の猶予もない。

 本人の気力だけで、かろうじて生きているようなものだ。

 それでも、その意思が一番重要なのだ。

 その意思がある限り、綱手も全力を尽くす。

(がんばってくれ)

 そう、イルカの唇が動いた。

 自分に向けて、まだ生きていたいのだと言った。

 カカシに掴まれた跡までも映した、自身の分身を腕に縋って。

(一緒に、生きるんだ)

「イルカ、術を解きな」

 終わったよ。

 そう綱手が微笑んだ瞬間、イルカの術と意識は失われた。
 
 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/24
UP DATE:2004/11/24(PC)
   2009/11/07(mobile)

 
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