カカイル

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 その姿を呆然と見送ったカカシが、なにやらじたばたしている物音を聞きながら、シャワーのコックをひねる。

 夕べのカカシ同様に、冷たい水を浴びながら徐々に温くなるのを待つ。

 見下ろす身体のそこここに、夕べ触れられた跡が残っていた。
 その一つ一つにカカシの想いが刻み込まれているのだと思うと、急に居たたまれなくなる。

 イルカはシャワーの勢いを強くした。


 


 浴室から出る時に身体を拭ったタオルを腰に巻きつけ、新しいタオルで髪に残った水分を拭いながらイルカは部屋に戻った。

 途端に、まだ寝台の上で膝を抱えていたカカシが拗ねた声を出す。

「……イルカせんせー、オレのことなんかちーっとも意識してないデショー」

 その声を無視し、冷蔵庫に残っていた缶ビールを2本取り出してイルカは問う。

「カカシさんも飲みますか?」

「あー、頂きます」

 カカシに寄り添うように腰掛け、缶を1本渡してから、ようやく先程の答えを口にする。
 
「これから一緒に暮らすのに、一々意識しあってたら身体がもたないでしょう? それ言うなら、あなただって! せめて隠してください」

「確かに、今は先生のこととやかく言えるような状態じゃありませんけど、だからってそのカッコはあんまり無防備過ぎます! オレの理性が持ちません!!」

 ぷしっと音を立ててプルタブを引き上げつつ、イルカは未だに全裸なカカシの状態を視認した。

「ああ、確かに崩壊寸前ですね」

「さらっと言わんでください! そーゆーコトをっ! 男らしすぎて惚れますから!」

「すみません。オレ、こーゆー性格なんです」

 一気にビールをあおるイルカの様子を盗み見ながら、カカシも缶を開けた。

「もしかしてイルカ先生。オレに同棲諦めさせようとしてませんか?」

「んー、どうでしょうね。でも、この程度でおたつくようなら、一緒に暮らしていけませんよ」

「そりゃあ、そうですケド」

うつむいてビールをすすりながら、カカシは続ける。

「でもねーぇ、すっごい好きな人にそーゆーオイシイカッコで目の前ウロウロされたら、誘われてるんじゃないって頭では分かってても、襲いたくなるのが男ってもんデショー?」
 
「ええ」

「……分かってて、やってんですか?」

「同居って初日が肝心だと思うんですよ。互いの相互理解というか、関係の明確化に。だから、境界線を自分の中で引いておきたかったんです」

「……境界線、デスカ?」

「こういう格好であなたの前にでて手をだされたら、以後は控えるつもりでした」

 にっこりと微笑むイルカに、カカシは思わず手にしていた缶を握りつぶす。

「……つもり、でした……って……あなた、今後ずっと、風呂上りにそーゆーカッコでオレの前をうろつく気なんですかーぁっ!?」

「はい」

 にこにこと笑顔で返すイルカに、カカシは深く深くため息をついた。

「……はーぁっ……もう、カンベンしてくださいよー」

「……まあ正直に言うと、着替えを忘れたってだけなんですけどね」

「だったら、もーちょっと……ってタオルも濡れてんじゃないですかっ!?」

 夕べ自分が使ったバスタオルをイルカの腰に巻きつけてから、カカシはまだ濡れたままのイルカの髪を拭いにかかる。

「イルカ先生が意外と手のかかる人だって分かりましたから、今後はこーなんないようにオレが気をつけます。それでいいでしょう?」
 
 
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