カカイル

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 術者の描く軌跡はまるで、己のテリトリーに踏み込んだ者を怒りと絶大な力を持って屠っていく双頭の竜のようだった。
 容赦のないイルカの瞳は冴え冴えとした夜の闇にふさわしく、冷たく輝いている。

 彼の動きと瞳に目を奪われていたカカシが我に返った時、もはや動く者は2人だけになっていた。

「なーぁにやってんの、アンタはっ!」

「遅かったですね」

「待ってる気もなかったくせに、そーゆーこと言わない」

「すみません。単独で先行してしまって」

 あなたならもっと早く来て下さるかと思ってたんですけど。

「それで? アイツは置いてきぼりですか?」

 イルカの視線の先、森の奥からアスマと、カカシが置き去りにした中忍が姿を現した。

 中忍は左腕に傷を負っているらしく、アスマは不機嫌に咥えたタバコを噛んでいる。

「カカシ」

「あー、はいはい。オレが軽率でーした」

 イルカが単独先行して接触したのは本隊だったようだが、向うも斥候を出していたのだろう。

 後を頼むと言われたカカシはそれを失念し、物慣れない中忍を危険にさらしてしまったのだ。
 
「ったく、平和ボケしやがって。イルカが式飛ばしてこなきゃ、コイツどーなってたかな」

「だーから、オレが悪いって」

「ま、お前ぇの指示を聞くたぁ思っちゃいなかったけどよ。ああ、イルカ! コイツ手当てしてやれや」

「はい」

 隊長の指示にイルカは同僚の手当てを始めた。
 しかしされる方は、自分の怪我の原因をイルカとでも思っているような目で見ながら、それでも大人しくしている。

 その背を睨みながら、アスマは声を潜めて短く、言葉を吐き出した。

「あのガキ絡みで、嫌ってるみてぇだし……」

「……ナニソレ?」

 その言葉をカカシ理解できなかった。

 あのガキ──というのはきっとナルトだろう。
 だがそのナルトを、誰よりも大事にしているのはイルカだ。

 それなのに、カカシを嫌うとはどういうことだろうか。
 任務に、命に関わるようなこの状況で命令も指示も無視するほどに。

 あのイルカが。

「あのイルカ先生が? オレ……っていうか、ナルトを?」

「信じられねえだろうが、あの先生と同じと思ってんじゃねえ」

 アイツはな。

 そう、アスマは言葉を切る。
 
「イルカは、里の奴ら以上にあのガキを憎んでんだ」

「なっ!?」

 ただ1人、ナルトの存在を認めて受け入れてきたイルカ。
 そのイルカが、同時に誰よりもナルトを憎んでいる。

 もしそれをナルトが知ったらと考え、カカシの心はきつく締め付けられるように痛んだ。

 そしてそれ以上に、そんな2つの気持ちを持ったイルカの苦悩に、頭がどんどん冷えていく。

 イルカの抱えている闇、それは明けることのない夜のように深く冷たいものに思えた。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/10/31
UP DATE:2004/10/31(PC)
   2009/01/28(mobile)
 
 
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