カカイル
□カカイルネタ帳
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Nine Tailes
0:残夜 暗い空を光の尾が駆けていく。
それを追いかける轟音と衝撃。
航路の直下にあったプレハブやテントは吹き飛ばされ、免震構造の本営すらも揺らいだ。
遠く響き渡るそれは獣の咆哮に似ている。
だが、臆するように震え鳴く硬化ガラス越しの残夜を疾駆するのは、人が造り出した戦闘用航空機だ。
過剰に供給されるエネルギーで金色に輝く機体。
引き裂かれた大気に乱される航跡は幾筋もの尾のごとく。
追いすがる対空砲火の先を翻る刹那、的確に地上の砲台を潰していく火器は猛禽の爪か。
地平の彼方から押し寄せる迎撃機の群れを蹴散らし、各個撃破していく誘導弾は猛獣の牙の様相。
大空を自在に駆け、爆発の花を散らすその姿。
まさしく、九尾の獣。
人々は絶望に打ち拉がれ、もはや頭上を仰ぎ見ることもできない。
人類が造り出した最高にして最悪の戦闘機械。
試作戦闘航空機T-F-009──後にナインテールと呼ばれる、この戦闘機を止める術はないのだ。
超高精度センサーを搭載し、トップガンの飛行技術を学習させ自己教練プログラムを備えた次世代式自立思考型人工知能によって無人計器飛行が可能だ、と。
更に再生する特殊装甲と半永久内燃機関を搭載した機体は永久航行すら可能だ──と開発者は息巻いたものだ。
技術者達が鼻息も荒く大々的に取り仕切った最後の試験飛行中、暴走は起こった。
予め入力されていた模擬目標のデータは飛び、代わりに帰還場所であったはずの施設がある基地周辺が成り代わる。
開発者が期待した以上に正確な爆撃で、まず彼ら自身が標的となり、次に国内の軍事拠点が次々と襲われた。
勿論、軍も指を咥えて傍観していたのではない。
可能な限りの防衛策をとり、速やかに迎撃したのだ。
けれど、かの機体に搭載した人工知能には戦略拠点や配備戦力だけでなく、暗号表まで全て把握されている。
迎え撃たなければならないのは想定内の敵国ではなく、近々に実戦配備を考えいた自国の兵器──それも最強かつ永久の兵器だった。
行き過ぎ傲った人類の愚行に神の怒りが具現化したかのような光景に、未来どころか絶望すらも存在しないのではないのか。
誰もがそう思いかけた時だった。
白み始めた東の空からまだ残る夜を引き裂く曙の一矢と見紛う黄金の光が明響を纏って飛来する。
蹂躙の手を休めることのない獣へと向かいたなびく排気煙に、識別用信号弾の色が混じっていた。
国色の常葉、隊科色の赤、階級を示す黄色。
その色が明示する存在に、人々は歓声を上げる。
「提督だーっ!」
「4世が出てこられたぞーっ!!」
活気を取り戻す人々の上空で2機がすれ違うと、僅かに生き残った対空砲火が獣の後を追った。
その遥か高空、アヌーランと呼称される攻撃衛星が照準光を伸ばす。
周囲20kmから急速に収縮していく可視光線は地上に存在する全ての者への警告だ。
静謐な青白い光を2機が行き過ぎる。
その瞬間を狙いすまして、甲高い悲鳴を引きずって炎の飛礫が黄金の光諸共に獣を貫き、大地をも抉った。
着弾の閃光に遅れて爆音と衝撃が地を這い、波紋状に広がって地表にある全てを吹き飛ばしていく。
砕かれた大地より呼び起こされた溶岩が残されたものを焼き払い、遂に夜は燃え落ちた。
奇妙に明るく静かな朝は、多くの人々に刻まれた暗い宵闇の傷を白々しく晒している。
《更新停止》
(初出:2005〜2006?
最終更新:2013/08/15)