*設定*
主人×使用人です。
最初麗ちゃんは遊郭にいます。
葵さんはどっかのお金持ちです。
苦手な方はお戻りくださいませ。
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物心ついたときには、もうここにいた。
日が沈むと、明るく煌びやかになる、夜の街。
いつからここに居たのか、覚えていない。
でも漠然と、此処はどういう場所なのかは、わかっていた。
売られているのが、人間の女性であること。
快楽を求めて、金銭を支払う男性がいること。
…いずれは、自分もその商品になるのだということ…。
諦めていたのかもしれない。
自分の人生にも、将来にも。
この世界に、神などいない。光も、希望も。なにもない、と。
そこから救い出してくれたのが、貴方だった。
葵「…そこから、出たいか?」
幼いうちは、自分のいる店の手伝いをしていた。
店の商品…即ち、年上女性たちの小間使い。
そんな時、そこに現れた…自分より十ほど年上の青年に声をかけられた。
売り物ではない、それ以下の価値の自分たちが、客と口を利くことは禁じられていた。
だから、何も答えることは出来ず、店主が遠目に睨んでいる。
…あとで、また折檻されるのだろうか…。
打たれなければいいな…なんて頭の片隅でぼんやり考えていた。
葵「…店主。こいつはいくらで買える?」
俯いていた自分には、その人がこっちを指さしているなど知りもせず。
慌てて店主が客へと寄っていき、何か話している。
…もう、行ってもいいだろうか…
仕事をしなければ、姐さんたちに叱られる。
ただでさえ、店主からの折檻も控えているのだから、何事もなくやり過ごしたい。
面倒ごとは、もうたくさん…
そう思い立ち去ろうとした時、突如身体が浮いた。
麗「…っ!!?」
驚いていると、さっきの男性が自分を抱え上げていた。
葵「今からお前は家の人間やよ。もう喋っても大丈夫…」
にこりと微笑まれて、ドキッとした。
こんな風に自分に笑いかけてくれる人は、いなかった。
…ただ一人を除いては。
麗「…っ、流鬼…!」
大切な、自分の友達。たった一人の友達。
親も兄弟もいない自分にとって、唯一の家族と呼べる人。
辺りを見回すと、少し離れたところで作業をしていた流鬼が、笑ってくれていた。
笑って、でも、寂しさを堪えて、よかったな。と言っているような顔で。
そんな友達を残して、自分は一体どこに行けるというのだろう。
孤児院の頃からずっと一緒で、寂しいことも、ツラいことも、ずっと一緒に耐えてきた。
それが、今、あの子を此処に置いて行っては…自分だってきっと耐えられない。
離れたくなくて、涙が零れた。
此処に居たいわけじゃない。だけど、流鬼が此処に居るというのなら…自分はやっぱり、此処がいい。
麗「…っ、あの
葵「店主。あれも買う。いくらや?」
一緒には行けない。そう伝えるはずだったのに、彼から出た言葉に驚いた。
結局、自分たちのわからない話を数分したと思ったら、流鬼とともに青年に手を引かれて店を出ていた。
通行手形がなければ、自分たちはくぐることの出来ない門。
それを、いとも容易く抜けた。
一体何がどうなっているのか。
流鬼と二人、顔を見合わせてあっけに取られていた。
葵「おまえら、名前は?」
麗「ぁ…麗、です…」
流「流鬼」
反射的に敬語が出た。相手が年上なことがわかるから。
答えると、青年は自分たちの頭をぽんぽんと撫でてくれた。
…こんなに優しく触れられたことは、今までになかった。
葵「俺は葵。これからお前らの主人になるわけやけど…まぁ、そんな緊張しやんでええよ。家に帰ったらちゃんと説明するからな?」
自分たちの目線に合わせて、しゃがんで話をしてくれた。
やさしく笑いかけられて、悪い人ではないんだと安心した。
どこに連れていかれるのかはわからない。
でも、どうでもいい。
どこへ行っても、きっと何も変わらないから。
流鬼が一緒にいる。
それだけで、充分だから。
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ついた。と言って車から降ろされた場所には、大きなお屋敷が建っていた。
ここが二人の新しい家。葵さんはそう言っていた。
それから後、聞いた話によると…
この屋敷の主人が葵さんであること。
自分たちには、住み込みで使用人として働いてほしいとのこと。
他にもたくさん使用人はいるけれど、困ったことがあればいつでも言って欲しい。と紹介されたのが、戒さんと玲汰さん。
二人とも昔からこの屋敷に仕えているらしい。
自分の直属の上司に当たるのが戒さん。玲汰さんは葵さんの執事兼側近で、流鬼の上司にあたるそうだ。
そんなことを簡単に紹介されて、自分たちの部屋だという場所に招かれた。
一人一部屋、個室が与えられた。
…そんなもの今まで持ったことがない。
流鬼と自分の部屋は、壁のドアから直接行き来できるつくりになっていた。
明日は一日ゆっくり休んで、明後日から仕事にしよう。そういわれて、人生で初めて、ベッドに寝転んだ。
ふかふかしていて気持ちよくて、すぐに睡魔に襲われた。
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今日はいい買い物ができた。
上機嫌で書類に目を通していると、いつもの二人がやってきた。
玲「そろそろ欲しかったろ?」
戒「玲汰、仕事中なんだからちゃんとしなよ」
コーヒー片手に玲汰がやってきて、その後ろから戒くんがきた。
書類を机に戻して、二人に笑いかける。
葵「ありがとな。」
戒「で、葵さん本題だけど。」
葵「ん?」
言いたいことはわかっている。
玲「葵さんってロリコン?ショタコン?」
そうきたか…。
悪いがそんな趣味はない。
ただ…
葵「それはどうでもええけど…あの二人、もう何年かしたらキレイになると思わん?」
戒「それはわかる。わかるよ。けどさ…」
玲「恋人候補か?」
相変わらず、玲汰の物言いは、聞いていて清々しいほど正直だ。思ったことをストレートにぶつけてくる。
葵「別にそういうんやないよ」
戒「…将来的には恋人?それとも性欲処理?」
葵「そんなわけ、あるとおもうか?」
玲「ま、性欲処理はあったとして。恋人はないな」
楽しそうに玲汰が笑っていた。
戒「…俺の下に持ってきたからには、性処理にもさせるつもりはないけどね?」
葵「さすがやな、戒くんは」
あたりまえでしょ。と言わんばかりに戒くんは腰に手を当てていた。
葵「ま、理由なんて大したもんはないけど…強いて言うなら、麗やっけな?あいつの成長は楽しみやな。」
玲「へぇ…葵さんのお眼鏡に適ったわけだ…。」
戒「ハァ…かわいそうに…」
世界を諦めたようなあの目に、もう一度光を灯してやりたくなった。
ただそれだけが、あの二人を此処に連れてきた理由だった。
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仕事と言われ与えられた作業。
それは、どれをとってもあの店でさせられていた仕事に比べれば、たやすいものだった。
失敗するときもあった。
反射的に、怒られる。打たれる。そう思ってぎゅっと目を瞑った。
でも、降ってきたのは予想していなかった言葉。
戒「失敗は誰にでもあるから大丈夫だよ。それよりもケガしなかった?」
そう言って優しく微笑まれて、頭を撫でられた。
…こんなことは、今まで一度もなかった。
そのせいだろうか
麗「…っ、」
戒「え!?大丈夫!?どっか痛いの!?」
堪え切れずに零した涙を、どこかにケガをしたものだと勘違いされた。
麗「大、丈夫…です…っ。こんな…心配されたこと、ないから…っ、嬉しくて…」
途切れ途切れに事情を話すのを、じっと黙って聞いていてくれた。
何度も何度も優しく頭を撫でられて、心がポカポカした。
…こんなに優しい世界が、あったなんて…知らなかった。
屋敷に来てからの日々はあっという間だった。
たくさんの人がいたけれど、みんな優しかった。
叩かれることも、打たれることも、焼いた火箸で折檻されることもない。
顔を合わせれば二言三言の会話を交わしてくれたし、睨むような視線を送ってくる人は、一人もいない。
敢えて言うなら、使用人仲間たちは戒くんのことを厳しいという人もいたけれど、それは悪口ではなかった。
あくまで、仕事に対する厳しさであって、本人の人柄をどうこう言うものではない。
それから…ずっと「さん」付けで呼んでいたのに、「戒くん」と呼んで欲しいと頼まれた。
使用人も葵さんもみんなそう呼ぶからって。
慣れない「さん」づけは気恥ずかしいとも言っていた。
だから、それ以降は流鬼共々「戒くん」と呼んでいた。
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いつものように書類を眺めながら、葵くんが声をかけてきた。
葵「で、戒くん、玲汰、首尾は?」
戒「首尾って?」
葵「あいつら。上手くやれとる?」
随分お気に入りだこと。
今まで新しい使用人のこと、自分から聞いてきたことないくせに。
戒「そうだね。よく働いてるよ。」
玲「右に同じく」
葵「そうか…他の人間とのトラブルは?」
対人関係まで心配するんだ。驚き。
戒「ないよ。二人とももくもくと作業するし無駄がないから。叱られることもほとんどないと思う。」
葵「へぇ…そんなにできるんや?」
玲「…元居た場所が場所だけに…ってやつ?」
何も言わずにソファに座っていた玲汰が口を開いた。
大正解。
戒「そうみたい。あの店では随分苦労したらしいから…まぁ想像はしてたけどね。…だからかな、外の世界で普通に暮らしてる人間の多少の嫌味なんて嫌味の内に入らないっぽいよ。」
玲「そんなこと言う奴いるのかよ」
あからさまに嫌そうな顔をしている。
そうだよね。玲汰はそういう陰でコソコソ…みたいなの、嫌いだもんね。
戒「そりゃ人間だもん。…というか、あの子たちが仕事出来過ぎるんだと思うよ。二人より少し前に入ってきた使用人より仕事出来ちゃうからさ。年上連中には仕事が早くて丁寧だって気に入られてるから尚更。かな。」
葵「やったらええ買い物したな、俺」
戒「それについては本当に。おかげでこっちも助かってるよ。」
素直に。感謝している。
人手不足はずいぶんと解消されているから。
だからこそ。
気になることが一つ。
戒「…まぁ、その分あの子たちの心のケアを大事にしようと思ってるよ」
葵「…気になることでもあったん?」
葵さんはあの子たちと接する時間が少ないから、知らないよね。しかたない。
玲汰もそれについては、うんうんと納得して頷いている。
玲「あいつら、泣いたんだよ」
葵「…嫌がらせか?」
戒「ううん。そうじゃなくて…麗がね、前にお湯を運んでいた時に重くて零しちゃったんだよね。その時に俺が火傷してないか心配したら、泣いちゃったんだ。」
玲「俺も流鬼が荷物運ぶの大変そうだったから手伝ってやったんだよ。そしたら泣きながら礼言うんだぜ?」
失敗をすれば怒られる。仕事が遅ければ怒鳴られる。どちらにせよ、仕置きが待っている。
殴られるか打たれるか。冬なら寒空の下、水を浴びせられる。
そんなことが日常だったせいだろう。
年齢にそぐわない笑い方、仕草が目立っていた。
葵「…そうか…」
戒「まだ子どもなんだもん…もっと楽しそうに笑って欲しい…」
玲「ここに居れば、いずれはそうなってくれるさ…」
葵「そうやとええな…」
願わくば、少しでも幸せを感じられるようになってほしい。
世界は、絶望ばかりではないことを、知ってほしい。
大人にも近い歳のせいだろうか。
赤の他人だけど…二人のしあわせを、切に願った。
++++++++++++
あの世界から自分を救い出してくれた。
こんなにも優しい世界を与えてくれた。
あの人は自分にとって神さまにも等しい存在。
否、自分は神などいないと思っていた。
だから、あの人は自分にとって、間違いなく神さまなのだ。
麗「…次に会えたら、お礼言わなくちゃ…」
仕事はよくできると褒められた。
これまで、褒められることなんてなかったから、慣れていなくて…嬉しくて、更にがんばった。
ここでは、自分の仕事を必ず誰かが評価してくれる。
今までは…やって当たり前としか、思われていなかったから。
ここに来れてよかった…今は心の底からそう思う。
麗「…あれは、間違いだったんだ…」
どこへ行っても、何も変わらない。
そう思っていた。でも、今は…
葵「何が間違いなん?」
麗「…!!?」
ポツリと嘆いたひとり言。
それにまさか返事が来るなんて。
窓を拭いていた手が止まって、驚いて飛び上がった肩が強張る。
葵「久しぶりやな?仕事、よくできるって戒くんが褒めとったよ」
麗「…っ」
そう言って、初めて会ったときのようにポンポンと頭を撫でられた。
次に会ったらお礼を言おうと決めていたのに、言葉が出てこない。
驚きすぎて、声を失くしてしまったようだ。
葵「ごめんな、驚かせて。落ち着いたか?」
にっこりと優しく笑いかけられて、心臓が大きく音を立てた。
バクバクして、息が苦しい。
そんなに自分は驚いたのか…。
鼓動を落ち着けようと胸に手を当ててみた。
麗「ぁ、あの…っ」
葵「ん?」
さっきの笑顔のまま、首を傾げて問われた。
その仕草にも、ドキドキして…眩暈がしそう。
麗「…っ、ここに…連れてくてくれて、ありがとうございます…っ」
ぺこっと頭を下げたままでいると。
顔を上げるように促された。
目に映ったのは、とても嬉しそうに笑った顔で…。
頭が、ぐらぐらした。
葵「そう言ってもらえてよかった」
麗「…、っ」
わしゃわしゃっと頭を撫でて、その人は去っていった。
残されたのは、どうしようもないほどの動悸と、倒れそうになるほどの眩暈。
あの人に、心から陶酔した、瞬間だった。
あの人のためなら、死んでもいい。
今はもう懐かしいあの場所で、美しいと評判だった姐さんが言っていたのを思い出した。
そうか…あれはこういう気持ちだったのか…。
仕えるなら、不特定多数の人よりも、たった一人の主人がいい。
そんな主人に、出会えた自分は、幸福だ。
NEXT
++++++++++++
性懲りもなくまたつづきます!
人狼葵さんの方もまだ書けてないのに…(/ω\)
気長にお付き合いしてくださいませ。
ここまで読んでくださりありがとうございました!