乙男☆跡部景吾

□出会い
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『ゲームセット!ウォンバイ、跡部景吾!』

会場に響き渡るアナウンスと同時に、女子の黄色い声援が割れんばかりに湧き上がる。

俺様、跡部景吾は、氷帝学園高校2年になり、中学の頃と変わらない生活をしていた。

「跡部、流石やなぁ。お疲れさん」
「当たり前だ」

ベンチに戻る俺に声を掛けて来たのは、なんやかんやで中学からの付き合いになる忍足侑士。
所謂、腐れ縁で、俺の本性を知る数少ない人間だ。


「あ、あの…」
「あん?」

ふと女子の声が聞こえて振り返れば、1人ピンク色のタオルを俺に差し出して来ていた。

「良かったら使って下さい!」

そう言って差し出されたタオルは、ピンク色のタオル地に白いうさぎの刺繍が入っていて可愛い…

って、違う!


「その色を俺様に使えってのか、あーん?」
「え、あ、ごめんなさい!」


女子は顔を真っ赤にして、走り去った。
一部始終を見ていた人間は皆、当然という顔をしている。

忍足を除いて。


「跡部。手が半分出かかってたで」
「忍足…」

腹を抱えて笑う忍足に、ある意味手が出そうになるがこらえ、自分のバックから黒いタオルを出す。
 

顔を拭けば、「黒が似合う」だの女子の声が聞こえて来た。


俺様は…本当は…








「オトメンの事、カミングアウトしてまえばええのに」
「そんな事出来るか」

帰り道、忍足と2人でファーストフード店に向かう。
中学の時に初めて行ったが、味は悪くない。煩いのが難点だが、少しの時間なら居ても良いと思うようになった。


するとそこへ、

「おう跡部、今日は良くもやってくれたなぁ」

人通りの少ない道で、今日の対戦相手がゾロゾロ仲間を連れて集まって来た。
対戦していても荒い奴だと思ったが、根っからの不良だったようだ。

「お前が弱かっただけだろ」

こんな事は、中学の時から日常茶飯事で、慣れはしたが、やはり怖い。


「行くぞ。忍足」
「はいはい」


不良の横を通ろうとした時、目の端で拳が振り上げられたのを見た。

急いで構えようとした時、その不良の顔に何かが当たった。


その当たったものは、地面に落ちるとテンテンとボール特有の音を立てて跳ねる。


「サッカーボール…?」

その場の全員が一斉に、飛んで来た方向を見れば、女の子が1人立っていた。
制服は青学のもの。帽子を深く被っていて、顔は見えない。


「お前誰だ」

この場の全員の疑問を不良の1人が尋ねる。

「ん〜?助っ人参上!」

言うなり、彼女は、横に居た不良を蹴り飛ばした。

一瞬沈黙の時が流れ、1人が「テメェ!」の彼女に殴り掛かった事で、不良全員が彼女へ攻撃を向ける。

彼女はヒラリヒラリと交わすと、カウンターで不良を倒して行った。


「ちょお、跡部!あれヤバいんちゃう?」
「…いい」
「は?」
「格好良い」



「あなた達、怪我は無い?」



これが、俺、跡部景吾と九条拓実の出会いだった。




続く

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