乙男☆跡部景吾
□宍戸の彼女!
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次に拓実に会えるのは週末だと思っていたが、予想以上に早くまた会う事が出来た。
「跡部君、宍戸君がね彼女にプレゼント渡すの恥ずかしいから、近くで見てて欲しいって」
「普通、見られる方が嫌がるよな」
俺の言葉に拓実も苦笑いだ。
今俺達が居るのは、学校近くの喫茶店。
今日の部活はミーティングと自主トレだったから、早めに帰ろうとしたら見事に捕まった。
まあ、拓実とこんなデ、デートみたいな事になって嬉しいのだが。
意外がられるが、俺は今まで、女の子と一緒に喫茶店に入るなんて考えられなかった。
多分、初めて。
「跡部君、どうかした?」
「いや…、宍戸の奴、こっち見過ぎじゃないか?」
俺達から少し離れた席で、宍戸は彼女待ちしているが、そわそわし過ぎて怪しい位だ。
時折、助けを求めるようにこちらを見る。
「アイツ、今までプレゼントどうやって渡してたんだ?」
「忍足君と後輩について来て貰ってたんだって。昨日言ってた」
宍戸のシャイぶりはなかなかだった。
そして、1人の氷帝生が宍戸に近づいた。
「何か、宍戸君の彼女、真面目そうでお似合いだね」
俺は返事をしなかった。
何故なら、彼女は氷帝で有名な変わり者のグループに属している女子だったからだ。
今まで宍戸が付き合っているなら普通の女の子だと思っていたが、人の趣味は分からないものである。
宍戸は一度チラリとこちらに目を向けると、カバンから昨日俺が選んだプレゼントを彼女に渡した。
宍戸の顔は真っ赤。
「あっ宍戸君ついに渡した!」
向かいで拓実が嬉しそうにカップルを見つめていたが、こちらに聞こえてくるまでに大きな声を、宍戸の彼女が発した。
「亮!ホント萌え!」
空気が明らかに凍った。
「彼女さん、何やら燃えてるみたいだね」
「いや、あれは…」
オタクだ。
しかし、これでわかった。
宍戸がいつも昼を彼女と食べないのは、彼女がオタクの昼集会に参加しているから。
興味無い俺様が知っているのだ。
宍戸が知らないはずがないが…。
いや、宍戸ならあり得る。
「宍戸君、プレゼント渡せて良かった」
「まあ、そうだな」
一応、俺達の仕事は終わった事になる。
2人で喫茶店を出ようとした所、宍戸が余りにもこちらをチラチラ見過ぎたのだろう。
宍戸の彼女が、俺達の存在に気付き宍戸に何か言っている。
すると、宍戸がニコニコしながらこちらへ向かって来た。
「2人とも!アイツが良かったら一緒にって」
「ことわ…」
「良いの!?」
拓実が嬉しそうにしたので、俺は途中で断るのを辞めた。
少しでも長く一緒に居たい。
結局、離れて座ったのに、同じ席に座る事になった。
「はじめまして!私、輪島 夕子(わじま ゆうこ)!ゆうこりんって呼んでね」
「誰が、」
「わかった!」
宍戸の彼女はニコニコしながら挨拶してくる。
「私は九条拓実」
女子は2人で盛り上がり始めた。
席は宍戸とその彼女が向かいあって座り、宍戸の隣に俺、彼女の隣に拓実となっている。
「跡部、悪ぃな」
宍戸も女子の盛り上がりに苦笑い。
「夕子、このプレゼント、この2人が協力してくれたんだ」
「そうなの?どうりで男子にしては可愛い選び方してるなって思ったら、拓実が協力してたんだ」
本当は俺だが、勘違いしてくれたみたいで良かった。
「2人は付き合ってるの?」
ふと輪島 夕子に尋ねられ、俺は言い淀んだのだが、拓実は
「ううん、友達!」
「………」
あまりにハッキリ言う拓実に絶句する俺を、宍戸が同情の目で見て来た。
無性に腹が立ち、宍戸を肘で小突くと、輪島 夕子は俺の気持ちを察したようだったが、
「ふーん」と流してくれた。
話してみれば、意外と普通な輪島に俺は安心仕切っていて、不意打ちに対応出来なかった。
「今日は鳳君じゃないんだ」
「アイツは自主トレ」
宍戸の言葉を聞いて、「トリシシ…」と輪島が呟くのを俺は聞いた。
間違いなく聞いた。
「鳳君って?」
拓実の質問に輪島は嬉々として説明仕出しだ。
「鳳君ってね、亮のダブルスのペアなんだけど、もう先輩と後輩、むしろ男と男を超えた強い絆で結ばれてるの!萌えなの!」
明らかにおかしいのが最後に付いた。
「何をも超えた絆!素敵!燃えるね!」
そして明らかに違う解釈をした拓実。
なのに、意気投合しているちぐはぐな2人。