乙男☆跡部景吾

□カミングアウト大会
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忍足が引きつった笑みを浮かべながら言った。

「とりあえず、ツッコミ所満載やな」



小屋のテーブルに、4人の高校生と、スーツにスカーフの大人が1人。

テーブルの上には、洗ったばかりなのだろう、綺麗に水に濡れたきゅうりの山。

榊先生は、きゅうりを白い平皿に取ると、器用にフォークとナイフで食べ出した。


「いやいやいや、可笑しいやろ!」


忍足のツッコミで、俺は近くのフォークとナイフから手を引っ込める。

…危うく真似する所だった。
ほら、郷に入っては郷に従えっていうし。


「ご飯炊けたかな」
「う。うむ。」


ふと、拓実と真田の会話が聞こえて来た。

忘れたくても忘れられない、花に囲まれた真田…。

思い出すだけで…


「跡部、口元が上がってるで」
「忍足、テメェ人の事言えんのか」


俺達の様子には気付かない九条は、気をきかせて話を盛り立てようとした。


「2人は真田君と初対面?」
「初対面だ!」


俺達より先に真田が大声で答えた。


「嘘つくなや!」

忍足がすかさずツッコミを入れる。

 
榊先生に関しては黙ってやっているのだ。
真田の事は暴露してやる!


「立海の皇帝ともあろう人間が、畑いじりか。アーン?」

「う、うむ。皇帝としては、庶民の生活も体験せねばとな」



こいつ…!
マジで皇帝気取ってやがる!

忍足が横で盛大に吹き出した。


「真田君は、お花に詳しいんだよ」
「そ、そんな事は…」


九条の言葉を聞いて我慢出来なくなった忍足は、周りを気にせず爆笑しだした。

榊先生は、黙ってきゅうりをポリポリ食べている。


「さっ真田が、盆栽やのうて、西洋ガーデンに入れ来んどる、とはなぁ!」

笑いで言葉が続かない。


「盆栽もな、祖父の影響で始めたんだが、やはりガーデンの方がしっくりくるのでな、うむ。

花は美しい…!」


………

…真田ってこんなヤツだったか…?


「跡部!」
「なっなんだ!?」


真田が突然俺の名を叫ぶ。
驚いて声がひっくり返っちまったじゃねーか…。


「時に、そのポケットから覗いている花のストラップ…」
「え?あ、いや…」


以前九条に貰った花のストラップが、ポケットからはみ出ていた。

 
戸惑う俺を見て、真田が俺の肩を何故か優しく叩く。


「いいんだ跡部…隠さなくても…。

お前もお花様が好きなんだろう!?」
「は、はぁぁ?」


お花、゛様゛?
様付いたぜオイ。忍足を見れば、まだ笑っている。


「跡部、仲間が出来たやん!」


笑っていながら、余計な事を…!


「やはりな。跡部とは気が合いそうな気がしていたんだ!」

真田も余計なカミングアウトはいらねぇ!


「皆、仲良しなんだね!」

どこをどう見たら、仲良しに見えるんだ!九条!


九条が、ご飯の様子を見て来ると言うので、俺もついて行く事にした。
この空気の中に居たくない…!


大爆笑する忍足、
顔を赤らめて花の素晴らしさを語る真田、
…黙ってきゅうりをポリポリ食べ続ける榊先生…。


九条の後ろに着いて行き、隣の部屋へ移動する。
こんな自然の中で炊くのだから、外でなければ、釜戸くらいあるのかと思っていた。

が、

「で、電気炊飯器…」
「コレ、便利だよねー。」


まあ、現代日本だし…。
なんと言うか、期待を裏切られたような気がする。

 
「お米は私たちが収穫したものなんだよ」
「そ、そうか…」


電気炊飯器の後で言われても、イマイチがっかり感が抜けない。
…って、まるで俺が楽しみにしてたみたいじゃねーか!


九条が炊飯器からご飯を皿に山盛りにして行く。


「このご飯で作ったおにぎりは最高なんだ」

そう言って、米を握る九条を見て、俺も手伝う事にした。


手を水で濡らして、まだ熱いご飯を手に取る。
直ぐに1つ完成するが、九条は未だに1つ目をベタベタ握っていた。
心なしか、手のひら中に米粒が付いている気がする。


「九条、手、水で濡らしたか?」
「ううん」


…手を水で濡らしておかないと、米粒が手にベタベタ付いて、おにぎりは握りづらくなる。


教えると九条は驚いたようだった。


「今までずっと気にしてなかったよ。やっぱり跡部君って凄いね!」


九条にそんな事を言われて、凄く嬉しかった。


 
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