乙男☆跡部景吾
□異国生活 順風満帆?
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※カナダの地名を使っていますが、小説に出てくる、学校・団体・施設・人物は実在しません。
「ここがセント・ルック高校!」
あれからさらに飛行機を乗り継ぎ、
これから3週間、氷帝学園の生徒が研修を受けるアルバータ州のカルガリーにあるこの、セント・ルック高校にやって来た。
氷帝と提携している学校で、
日本の都心でも大きい方に入る氷帝以上の広大敷地を持ちながら、
生徒数は氷帝よりも少ない。
俺、跡部景吾は氷帝学園の生徒の先頭に立ち、迎えの先生に促されるままに着いていく。
大人数がキャリーケースを引きずっている為、凄い音が学校に響いていた。
窓からちらほら、学校の生徒と思しき顔が覗いている。
九条は緊張しているのか、辺りをキョロキョロしながら、俺の横を歩いていた。
「広い学校やな〜」
「生徒数451人、一学年150人程、男子220人、女子231人、敷地の広さは青学の5倍弱、フットボールコートを所有、」
後方から、忍足がそう呟く声が聞こえる。
乾は早速、得意のデータ収集の成果を口にしている。
暫くして、大きな広間に通された。
中には、沢山の外人が居て、日程的にはホームステイ先の家族である事が伺える。
氷帝の生徒が全員部屋に入りきると、案内役だった教師がマイクを持って英語で話し出した。
『氷帝学園の皆さん、長旅お疲れ様!早速ですが、ホームステイ先の方との面会に移ります。学校生活に関してのガイダンスは、明日、ここで最初に行います。』
そして、氷帝の教師とセント・ルック高校の教師が一緒になって、来ているファミリーの名前と生徒の名を照らし合わせていく。
「跡部君!拓実さん!」
一番最初に名前を呼ばれたのは、やはりというか俺達だった。
優しそうな老夫婦が、教師の横で手を振って待っている。
俺達はホームステイ前にプロフィールと写真を送っているので、顔でわかったのだろう。
荷物を引きずって行くと、優しい握手で迎えてくれた。
「君たちのホストファミリーの、コーシー夫妻だ。解散まで時間がある。あちらに飲み物とお菓子を用意してあるから、お話でもしていなさい。」
同じことを、コーシー夫妻もあちらの高校の教師から聞いていて、
挨拶もそこそこに場所を移動する。
歩きながらも、コーシー夫妻は温厚な雰囲気で、#NAME2##のしどろもどろな自己紹介を笑顔で聞いていた。
『私はロバート・コーシー。こちらは妻のルイーズだよ。』
「跡部君、こういう時は何て呼べば良いのかな?」
ふと九条が俺に小声で聞いて来た。
以前俺がホームステイした時は、Mr.Mrs.で呼んだのだが…。一応聞いてみる。
『Mr.コーシーと呼んで良いでしょうか?』
するとコーシー夫妻は顔を見合わせてから、
『これから3週間は君たちの親代わりだ。パパママで構わないよ!』
『パパ、ママ、素敵です!』
絶句する俺とは対照的に、九条は楽しそうにコーシー夫妻の手を握っている。
パパママなんて、は恥ずかしい…!
『景吾?どうかした?』
『いえ…Mrs.コーシー…』
この時ママと呼べなかった事が、後々尾を引く事になるとは考えてもいなかった。
その後も九条はコーシー夫妻に、下手な英語ながらも馴染んでいるのに対して、俺はなかなか会話に参加できずにいた。
「跡部君!お煎餅が置いてある!」
九条は、お菓子に気をとられた上に、たまたま目に入った忍足と乾に手招きされて、コーシー夫妻に断りを入れて行ってしまった。
その時に、「跡部君も行かない?」
と尋ねてくれたにも関わらず、俺はぶっきらぼうに「行かない」と答えてしまった。
自然とその場には、コーシー夫妻と俺と、九条の荷物だけが残される。
コーシー夫人が気を使って声を掛けてくれた。
『景吾、カナダは初めて?』
『父に付いて、3回程来た事があります。…Mrs.コーシーは日本には?』
やはりママとは呼べない。
『日本には行った事が無いんだけど、今は衛星放送で歌舞伎を夫と見るのが日課なの!』
Mrs.コーシーは笑いながら、今度一緒に観ましょうね。と俺の肩にぽんっと手を乗せた。