乙男☆跡部景吾

□カミングアウト大会
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兎にも角にも、大きいおにぎりを1人2つ分作り、さっきの部屋へ戻ると、
時の流れを感じさせない、全く同じ風景が広がっていた。


しかし、きゅうりは確実に減っていた。


「オイ、忍足!いつまでも笑ってんじゃねぇ」
「跡部、やって真田の花の話凄いんやで。真顔で『花は美しい…!』ってもう10回以上言うとる」
「そいつはすげぇな」


目の端で、榊先生がフォークとナイフで器用におにぎりを口に運ぶのを見た。


「む、今日のおにぎりは塩加減が良いな!」


真田は花の話を一端やめ、豪快におにぎりを掴み、大口を開けて食べ出した。


「今までおにぎりは全部九条チャンがやってたん?」
「そうだよ!でも前回は榊先生が杵と臼を持って来てくれて、3人でお餅つきしたんだ」


…それでお餅を弁当に詰めたのか…。
前回の弁当騒動は、忍足に宍戸が話したらしく、
お餅と聞いて忍足と目が合った。


「そ、そりゃあ、つきたては美味しかったやろなぁ」
「当然だ!俺が臼が真っ二つになるまでついたのだからな!フハハハ」


真田が自慢げに笑い声をあげた。


 
ふと榊先生をみると、食べ終わったようで、席を立ち上がった。


「榊先生!お帰りですか」

九条が声を掛けると、

「ああ、私は帰る。プチトマトときゅうりは良いものがあったら、採って帰っても良いからな。では」


外から突如巨大な機械音が聞こえ、俺と忍足が外へ飛び出すと、ヘリコプターが梯子を下ろしている所だった。

畑の植物が風に煽られて倒れそうになっている。

榊先生が梯子に足をかけると、ヘリコプターは上昇仕出し、
榊先生は俺達に手を一回挨拶のようにあげて見せ、
颯爽と空へ消えて行った。



「何や…。榊先生ってなんなんや…」
「分からねえ…。そもそもあれは榊先生か?」



しばらく2人の混乱は続いた。



「2人共!きゅうりとトマト、持って帰る?袋に分けるけど…」
「貰っておくわ、結構美味しかったで?」
「俺もだ」


早速きゅうりとトマトで何を作ろうか考える。



「じゃあ帰ろうか」

1人1人がきゅうりとトマトの入った袋、真田はプラス花、を持って、帰路に着く。



「真田は別のルートなのか?」
「ああ、俺は神奈川県だからな!反対側だ。

しかし跡部、おにぎり美味かったぞ!」


最後に小さく、九条はおにぎりに砂糖を掛ける時があってな…、と言ったのは聞かなかった事にする。


「俺様は、そこらのシェフより料理はできるぜ」
「そうか、まあ、また花を見に来い」


お互い女々しい趣味だが、少し位仲良くしてやるか、と思った午後3時。



九条の料理教室は、自然から食材を学ぶという点で料理教室なのかもしれない…。





「ところで、あそこの管理は平日は誰がしとるん?」
「妖精だよ」



…妖精?



「榊先生が、毎日妖精が畑に魔法をかけてくれてるんだって」



「幼稚園かいここは!」

帰り道、忍足のツッコミが山に響いた。







家に帰れば、泥だらけの俺様を見て使用人達が大騒ぎになり、説明が面倒だったが。


九条に初めて会った時、料理教室の帰りの割に、綺麗に制服を着ていた理由をきけば、
九条は、いつもは帰りに友人の家でシャワーを浴びてから帰っているらしい。
だが、今日は俺達が一緒という事で、そのまま帰る事にしたと言う。


朝の待ち合わせた場所で解散となった。
いつになく、楽しい休日だった。




季節はもうすぐ、修学旅行シーズン。




続く
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