時を越えて

□プロローグ 幼き日の記憶 
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小さな頃。
みんな帰ってしまった夕方の公園で、一人で遊んでいた。
砂の橋を作って、水を通した。お砂遊び用の小さなバケツに水を入れて、何回も蛇口と砂の橋を往復した。
砂が水を吸ってしまい、どうにも飽きてきて疲れた私は、つまらなくてブランコに座った。
夕日がそろそろ沈む。今日の夕焼けは朱色。青かった空は、朱に食われてしまった。

「今日もお空の負けだなあ」

ぽつんと洩らした独り言。誰も返事をしてくれない。
風がピューッと吹いた。くしゅんと大きなくしゃみをして。

「みんなもっと遊べばいいのに」

眠くなってきて、ブランコの鎖に頭をもたれた。冷たい鉄のにおい。

「お腹空いたな…」

のろのろと立ち上がり、歩き出す。朱色の空が、濃さを増していた。
向日葵色だった空が絹の朱色に変わり、そして血のように赤くなっていく。

私の中も、こんな色なのかな

みんな同じなのに、どうして私ばっかり

私の中だけ、真っ青なのかな

擦りむいた膝に目を落とすと、そこは赤く血が滲んでいた。

「…真っ赤だ」

その時。
突如キィーッとつんざくような耳鳴りがして、重い頭がゴトリと落ちた。
体中にガンガン響くような心臓の音。
ドクドクと、ありったけの血が全身を巡っている感じがした。
生きている。私は生きている。
手足が動かない。全身がドクドクと、力いっぱい脈打つ。心臓が、生き急いでいるかのようだった。

そんなに、急がないで。私はこれからも、生きるんだよ?

体中が運動して、熱くなっていた。もはや私は、心臓だった。

これからどうなるか、知ってるの?

うん、知ってる。分かるよ。

そうだね。悔しい?

うん、悔しいよ。

負けるのは嫌?

勿論。自分に負けちゃうのは一番嫌い。

だよね。そういうと思った。でもね、抗えないことが、世界にはいくつもあるんだよ。

うん、知ってるよ。だから私もこのままで、仕方ないんだって。

全身の内臓が、生き急いでいる。
あと、私がやりたいことはなんだったろう。
何を忘れて、何を思い出して、
何を手に入れて、何を失ったんだろう。
分からないのが、苦しかった。

納得できるんだ?自分以外に運命を動かされても

それが自分に動かせないものなら。

そして突然、転がった私の右手に光の粒が落とされた。
光り輝く、手のひらに収まる碧玉。

それが自分に、動かせないものなら
それが自分に、動かせるものなら

私は一つのハッピーエンドを目指して走っていた自分をなだめ、鉄球のようになった頭を動かした。

手段なら、選ばない
行先はきっと、これが教えてくれる
大丈夫
エンドのかたちは何個もある
時間が、人が、運命がいくつもあるように

口を大きく開け、爛々と輝きを放つ灯火を、

運命を飲み込んだ。

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