a-cord
□Life Game 21
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「これでF組は決まりかな」
「でしょうね」
武川と共にこのフロアで観戦していたアコードが初めて応えた。
彼女にとって、鈴妃は大事な妹のようなものらしく、見守る心中は穏やかではなかったろう。
さすがに、ゲーム中のエコヒイキはしなかったらしいし。
「そろそろ、次の準備も始めないとね」
この『L8』終了後に、『ソウルビースト』は追加版を発表する予定だ。
すでにデータはほぼ完成していて、最終デバッグまで進んでいる。
しかしデバッグに終わりなどなく、通常は延々と修正し続けることになるのだ。
それでも、一応は1つの区切りが目前に迫っている。
「ちょっと知られてきたし、派手にいきたいよね」
武川が話題にするのはその区切りとなる、御披露目。
「そうね。だけどその前に、片付けておきたいことがあるのよ」
彼女は頭に乗せたサイバーデッキのパイザーを上げ、コンソールを叩く手は止めずに話し出す。
「[MEJA]のこと、前に話したよね」
「うん。なんか気になるって」
「それと最近、荒らしが出てるし」
「そうらしいね……」
どうしたって規模が拡大し、話題性が高まると必ず主催者と大多数の参加者と意を反する者が出てくる。
近頃『ソウルビースト』にも、そんな不心得者が増えてきている。
パソコンが普及し、扱いも簡便なソフトウェアが主流となった。
いまや誰もがついうっかりでネット犯罪に手を染められる。
やるやらないは本人のモラル次第。
「まあ[MEJA]はそういうのとは、違うんだけどさ」
今のところ問題もないし。
「ただ、ちょっーと、面倒なお客さんかもよ」
「面倒って……まさか?」
信じられない、といった表情で武川はアコードを見返す。
彼女には特異な能力がある──いや、彼女の存在自体が稀有だった。
最新の機械や技術の中にも、まだ人の知らない何かが在る。
ネットワークに在る意識──電妖、と彼らが呼ぶモノ。
それとコミュニケーションを取る能力を持った人。
アコードは確信を持って頷く。
「多分、あたしの同類だわ」
そう告げる彼女自身は単純な能力者などではなく、そうそう近しい者が他にいるとはとてもじゃないが信じがたい。
「本当に?」
「多分、よ」
それはそれとして。
「[shi‐ji]って見かけたことある?」
急に話題を変えてきた彼女は楽しげだ。
わざとらしさに嫌なものを覚えながら、いいやと答える武川のディスプレイにウィンドウが割り込んでくる。
参加者の発言や操作をチェックできる、管理者画面。
日付は今日、時刻はついさっきだ。
「どういうこと?」
レベル3以下のビギナーリーグ設定なのに、レベル2対レベル7。
ついでに双方の登録名が[shi‐ji]。
「交流テーブルから、カテゴリ違いのプレイヤーを1度だけ誘える『招待状』を使えば不可能じゃないわ」
「じゃあ、二重登録でレベル上げか……」
ゲーム設定に時間制限はなく、アンティは5枚選択──勝てば相手カードから5枚選んで自分の物にできるルール。
レベル2の[shi‐ji]は商品を並べるように、脈絡もなく希少なカードから出している。
一方、レベル7の[shi‐ji]はじっくり時間を使い、じわじわと相手LPを削っていた。
バトルなんかではない。
新しいデッキから欲しいカードを抜き出していりだけだ。
「なんで、こんなことが……」
本来なら、できることではない。
up date:2008/12/08
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
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