短編小説
□愛のくらし
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でも2人が求めているのは、性別とか外見とか形やあからさまな価値のある関係じゃなく、ただ『相手』という存在だ(と、裕美さんに聞いた)。
つまり誰がどうひいき目に見ても、僕には希望がないってことだろう。
だけどソウコちゃんと裕美さんを諦めることはできなかった。
僕は2人がうらやましかったんだ。
裕美さんにオマケ呼ばわりされたショックは強烈で、それから1週間はぼろぼろだった。
そして今、週末の買い物のことも忘れてごろごろしていた僕は、連れ立って出かけようとしていたソウコちゃんと裕美さんに睨まれている。
「なにしてるのよ、朗」
「車だしてくれるって約束したよね、アキラさん」
言われて、慌てて着替え、車のキィと財布を突っ込み、玄関へ飛び出した。
裕美さんの視線が痛い。
「ごめんなさい。お待たせしました」
裕美さんのせい、と思いはするものの、謝っておいたほうがいい。
口では、というか理屈じゃ絶対に裕美さんに勝てない。
ヘタな薮はつつかないに限る。
僕らは3人で生活するようになってから、家事はその時できる人間がやることと、毎週末の金曜日か土曜日にそろって買い物に行くことを約束した。
名目は日用品や食料の買出しだけれど、お互いのコミュニケーションをはかる為でもある。
買い物の最中、お互いの好き嫌いだとか、必須の日用品といった情報から相手を知るのだ。
例えばソウコちゃんはコカ・コーラ派だけど裕美さんはペプシ派で、ウチでは両方をそろえなければいけない。
くだらないけれど、必要な情報だ。
それから、裕美さんは食玩コレクターだ。
雑貨のデザイナーをしているだけあって、特に小さな日用雑貨だとか食べ物のミニチュアサンプルが好きらしい。
気に入ったものはとりあえず買い揃えてしまう人で、金離れがとにかくいい。
この5年でソウコちゃんが彼女の財布の管理もするようになったのも、うなずける。
今夜も食玩売り場の前で、子供のように目を輝かせた裕美さんはソウコちゃんに千円分までよとか、前買ったものはもう買わないでねとか、母親のようなことを言わせている。
「ソウコちゃん、聞いてもいいかなぁ」
夢中になっている裕美さんに聞かれないようにこっそりと、ソウコちゃんにも聞いてみた。
2人にとって、僕はどういう存在なのか。
「それ、裕美ちゃんにもきいたの」
「うん」
「それで、裕美ちゃんなんて」
聞き返されて一瞬、言葉につまった。
ソウコちゃんにまで同じコトを言われたら、今度こそ立ち直れない。
だからといって黙っているわけにも、嘘をつくわけにもいかない。
「オマケ、だって…」
正直にいうと、ソウコちゃんは噴き出した。
おかしくてたまらないといった笑い声に、裕美さんも不思議そうに僕らを見る。
「なに。なんの話」
「裕美ちゃん、アキラさんのこと、オマケって言ったんだって」
「ああ、そのこと。なに。朗、ソーコにまで聞いたの」
そう言って裕美さんはオマケつきのチョコレート菓子を4つもカートに入れた。
そのまま茫然自失──という状態であろう僕とカートを残し、ソウコちゃんと裕美さんは歩きだした。
「なにしてるの朗。おいていくよ」
言葉だけ投げて、裕美さんは振り向きもしない。
ソウコちゃんもまだ、笑いが止まらない。
僕はカートに寄りかかるようにして、ゆっくりと後をついていくしかできなくなっていた。
up date:2009/01/06
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
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