a-cord
□Urban Legend
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Urban Legend
act.2
Pons Asinorom
アシーズ・ブリッジ
【asses’ bridge】
驢馬(間抜け、愚か者の意)の橋。未経験者、初心者を試す設問。
学生が躓きやすい、ユークリッド幾何学「二等辺三角形の両底角は相等」という定理の証明で引かれる補助線が橋のように見える事から。
彼女はディスプレイ上のアコードと同じ可憐な微笑みで、ほんの少し小首を傾げていた。
ツインテールに結われたまっすぐな黒髪と、細くて白い長めのリボンが強い冬のビル風に靡いている。
ちょっとつり上がっていて(角度によってはとてもキツい顔つきにも見える)大きな黒い瞳は宵闇にも眩しい広告の灯りや原色のネオンを反射して万色に輝き、ものすごく強烈な光を湛えていた。
二重に巻かれた淡いピンク色のマフラーに包まれた首が細くて血の気が薄い。
花紺色のダッフルコートのポケットに両手を突っ込んではいるが背筋は凛と伸びていて、裾から僅かにのぞく短い制服のスカートから濃紺のハイソックスに包まれた華奢な両足がすらりと立っている。
なんだか、とても現実とは思えない。
等身大のフィギュアが置かれているか、すごく精細な3DCGを見せられているような気分だ。
「ね、なんでヘコむなんて言っちゃうの?」
あ、声も明るくて可愛い。
「ね」
すっかり彼女の姿に見惚れ、声に聞き惚れてしまっている僕は、突っ立ったまま返事もできない。
「ね、ってば!」
それで、だろう。
何度目かの呼びかけの末、ぼそりと呟きが降ってきた。
「マジでヘコましてげよか?」
これまでにない、最上級の笑顔と共に。
「…………え?」
「ちょっぴり人間不信になっちゃうくらいに〜? それか、もう二度と出歩けないカンジに〜? もういっその事、この世を果無んじゃう程度に〜?」
「あの? あれ……?」
なんだか、急に、怖くなってきたぞ。この子。
「ヤだったら、答えて」
「ヘコみそうな、理由を、デスか?」
「そ」
笑顔だ。まさしく、あのアコードの笑顔。
なのに、すっげえコワイ!
きっとこれが『蛇に睨まれた蛙』って状態なのか。
「答えて」
「……アコードに、似てるって噂の女の子を興味本位で探してて、でもやっぱり噂の子なんか存在しないんじゃないかって、考えちゃってって。そしたらなんとなく、ヘコんできたっていうか……そんな気分に落ち込んで、マシタ」
「あはは。恥っずいよ〜、それ。ま、いいわ。今までで一番マシ、かな。君、気に入ったわ」
「それは、ありがとう、と言うべき、なのかな?」
「アタシ、神戸彰子。でも、アコードってのが通りが良いのよね」
「え? い、今……」
なんて言ったの?
そう聞き返したかったけど、彼女のおしゃべりと笑顔の圧力に、口を挟む勇気がない。
「君ならアコードって呼んでくれていいわ。だからこれは〜、次に会えるまでのシュ・ク・ダ・イ」
ポケットから出た彼女の手が、僕の手にメモリーカードを握らせ、思わせぶりに軽く触れてから離れていく。
やわらかな感触とささやかな温もりに嬉しくなる単純さは男の性だろうか。
「じゃあ、また会いましょ。武川ちゃん」
「え?」
なんで、僕の名前知ってるの?
up date:2016/11/23
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
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