a-cord
□Urban Legend
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あと宿題って、ナニ?
てゆーか、なんでアコード呼び?
呆気にとられて聞きたいことが言葉になるより先に、彼女は軽やかに駆け去っていく。
取り残された僕の脳内では、二人組のお笑い芸人がギターをかき鳴らしつつ激しく踊り歌っていた。
◇◆◇◆◇
その晩、アコードを自称する女の子宿題として押し付けられたメモリーカードを前に、僕は苦悩していた。
否、敢えて言おう。
懊悩している、と。
これは、やはり、アレ、だろうか。
噂に聞いた、アコードを題材に不埒な二次創作とかを行う不逞な輩のパソコンその他電子機器を破壊するという、凶悪かつ無慈悲なウィルスなのではなかろうか。
でも(信じてはいないけれど)神様に誓って、僕は公式から無許可で彼女の画像をお持ち帰りしたり、公式や二次の画像を加工転載したりしていない。
もちろん、彼女の存在やキャラクター性を揶揄したり蔑んだ書き込みをどこかにした覚えだってない。
まさかと思うが、アコードがいつもよりちょっとカワイイ衣装を着て微笑んでたらいいなあ、なんて事を考えるだけでアウト?
もしくはこう、もうちょっとアレな姿を想像したり、『おかず』にしたりしたのがバレて?
「……って、いやいや。さすがにそれは考え過ぎ……」
だってそんなコト、アコードを可愛いって思ってる男だったら、一度くらい……ヤルよね。
普通。
健全な男子なんだし。
第一、そんなコト、どうしたら分かるっていうんだ。
ああ、もう。
うだうだ考える前に(面倒でしかない)宿題は、さっさと片付けるに限る。
「ただ、なあ……。今、コイツに逝かれたら、マズイ……」
僕の使っているパソコンは高校三年間の小遣いと余暇をつぎ込んで、自分好みに組み上げて調整してきた、文字通りの愛機なのだ。
できるならば長く大事に使い続けたい。
ああ、こんなことになるんなら、サブに安いノートも買っておくんだった。
まあ、だからと言って家族や友人、ましてや学校やネカフェのパソコンで開けようって考えないのが僕らしい。
自分で言うのもなんだけど、無駄に善人というか、馬鹿正直っていうか。
「うー、仕方ない、か、なんかあったら、その時だ」
男は度胸。
とばかりに宿題として渡されたメモリーカードをパソコンに読み込ませた。
ディスプレイには書類アイコンが一つ表示される。
「なんだ? 『pons asinorom』?」
偶然だけれど、知っている言葉だ。
フランス語で、英語だと『asses’ bridge』。
日本語では『驢馬の橋』とか『愚か者の橋』って意味。
そして、未経験者を試す設問、という意味でもある。
つまり。
「……そういうワケ、なのかな?」
僕は、アコードに、試されてる?
なんで?
理由も彼女の思惑も分からない。
分からないけど、これはチャンスだ。
これは彼女に繋がる何かへの道標であり、きっと唯一の道なんだろう。
僕は思い切って表示されているアイコンをクリックした。
「……っ!?」
途端に画面一杯に開いたウィンドウには、数字の羅列。
大した文字数ではないが、つらつらと0と1が行列している。
マシン語、だろうか?
00100011010000110010001101000111
00100011010101000010001101000001
00100011010101000010001101000001
00100011010000010010001101010100
00100011010000010010001101010100
00100011010001110010001101000011
up date:2016/11/23
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
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