a-cord
□Urban Legend
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なにか規則性があるのは、頭が全部一緒だし、一見で分かる。
十六桁で一区切り、更にそれを四桁づつ二進数に変換してみたらどうだろう。
パソコンのコード変換機能を使えば、新しい数列が現れる。
23432347
23542341
23542341
23412354
23412354
23472343
この単純な四パターンの並びで閃いた。
とりあえずJISコード変換をかければ、思った通りのアルファベットが出て来る。
GC
AT
AT
TA
TA
CG
やっぱり四塩基配列───いわゆる遺伝子コードってやつ。
しかもどっかで見た記憶がある。
確か制限酵素の作用モデルだ。
と、いうことはもしかして。
「確か、ここに作用するのって……」
さすがに酵素なんて覚えてない。
けど、どの本に書いてあったなら記憶してる。
手近な書棚から目当ての本を取り出し、だいたいの見当でページをめくる。
「……あー、あった! これだ! えーっと……」
注意深く『Eco RI』と入力し、Enterを叩く。
が。
「って、エラーかー」
多分だけどね、これ最初の表示通りにJISコード変換して二進数で入力しなきゃダメな気がする。
極限に面倒くさいヤツだ。
たった五文字の言葉を一文字四桁のJISコードに変換して、それを更に二進数表示にすると八十桁になる。
それも0と1だけ。
そんな面倒で長ったらしいパスあるだろうか?
いや、コード変換してコピペすれば数秒だけどさ。
悪戯な可能性の方が高くないか、これ。
まあ、悪戯にしたらちゃちいし悪質って程でもない。
手が込み過ぎだけれど。
アコード似の女の子の噂を流して、彼女に鼻の下伸ばしてる野郎どもに期待持たせるようなコト言わせて、意味のない謎解きを宿題と称して持たせるなんて。
もし、そうだったとしたら、ショックだ。
それにアコード───似てるあの子のこと、信じたい。
「……入れて、みるかなあ……」
長くて面倒くさいだけの、一文字ミスったら最初からやり直し確実なパスコード。
別に手入力する必要なんてないのかもしれない。
でも、なんとなく意地だけでやってみようと思った。
これが悪戯なら、それはそれで構わない。
だって、ファイル名にあったんだ。
「驢馬の橋、か……」
ユークリッドの定理「二等辺三角形の両底角は相等」。
その証明で二等辺三角形に引かれる底辺と平行な補助線が橋に似ていることと、数学を学ぶ者が最初に躓くきっかけになることから言われた「愚か者の橋」。
これは未経験者を試すという意味もある。
試されている。
このデータは彼女への道標。
だからこそ、渡ってみせなければ、意味がない。
「……打った、打ったぞ、八十桁……」
0と1だけの八十桁は確認しようにも、目に痛い。
とにかく間違っていないことと、彼女に繋がっていることを願いつつ、Enterを押した。
「……開く?」
最初に表示されてた数字が解けて、新しいウィンドウが表示される。
赤い背景色が目に優しくない。
グレーの文字も読みにくい。
けれど確かに、彼女からの指示だ。
Come up hither!
「……『上がってこい』って」
どこへ、と呟きながら、表示された文字へカーソルを合わせてみると色が反転し、リンクが貼られていると分かった。
リンク先は表示されないが、開くしかなさそうだ。
「どうか、繋がっててくれよ」
もう一度、言葉にして願いながら、クリック。
すると、プリンタが動き出した。
「え?」
呆然としている間に低価格な割にそこそこ性能のいいプリンタは印刷を終えていた。
吐き出されたA4用紙には見覚えのあるジャンクステーションの10%オフクーポン。
ただし、見覚えのないかわいらしい文字が紙面を斜めに占拠している。
「……どーなってんの?」
明日の夕方、ここでね
これは一体、なんなんだろうか。
【続く】
up date:2016/11/23
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2004/09/12
さいえんすふぁんたしー発行
a-cord:01 Urban Legend
SITE UP:2016/11/23(mobile)
(最終更新:2016/11/23)