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□Tokyo Tower
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Tokyo Tower
──明日の朝10時にママンとこで待っててね
トーゼン、気合入れてくること♪( ̄∀ ̄)b
そんなメールを一方的に送ったのは、昨夜遅く。
もちろん、待ち合わせ相手に恥をかかせるワケにはいかない。
一応、今日はウィンドウショッピングだと連絡した以上、自分も歩きやすい格好をしていくべきだろう。
髪はラフなアップにコサージュをプラスしてガーリィかつエレガントに。
トップはクラシカルなテイストのフレンチスリーブブラウスと手編みレースのショール。
あまり自信のない胸はフリルのボリュームでごまかせるはずだ。
ボトムはマイクロミニのパンツとリボン使いが可愛いウェッジソールのサンダル。
勝負は足でかける。
送ってくれた車から下り、お気に入りの日傘を差して待ち合わせ場所までを歩く。
六本木ヒルズの一角、謎の銅像ママン。
その周辺には思っていたとおり、遠巻きに男どもの壁が出来ていた。
中心にはママンと人待ち顔のゴージャスな女。
彼女の体の一部分に熱視線を送りながらも、誰も声をかけられずにいる男どもには滑稽を通り過ぎて情けなさを感じる。
──結局は乳かよ、マザコンどもっ!
心の奥底で放送に乗せられないような言葉を毒づきながら、飛び切りの笑顔を作って手を振った。
「はぁい、朋ちゃん お待たせ〜」
普段呼ばない名を口にすれば、驚いた顔。
でもすぐに気を取り直して、怒った口調で返してくる。
「遅いじゃないのよ、ア……」
いつもの名前で呼びそうになるのに笑顔で圧力をかけた。
「待っててってメールしたでしょ、朋ちゃん?」
お互い、こんなところでいつも通りに呼びあってはいけない。
ただでさえ人目を引くのだから。
「ね?」
とびっきりの笑顔で首を傾げると、何故か周囲の男どもが一歩退く。
そして、何かに負けたように彼女は彼女を呼ぶ。
「……彰子、ちゃん……だからって……」
「うふふ。ゴメンねぇ」
思い切りしなを作って腕を絡め、ウインク。
「今日はゴチるから、許されてぇ」
残念がる有象無象を尻目に、女2人は腕を組んで歩いていく。
◇◆◇◆◇
神戸彰子が彼女と知り合ってから、どれくらいになるだろうか。
出会いのきっかけは、ネットゲーム。
但し、2人の対戦はある意味、リアルなものだった。
ネット空間でのガチでのボコりあい、ということでもないが遠い表現でもない。
まあ要するに、2人に在るのはバーチャルな拳で語り合った友情だと、彰子は思っている。
相手がどう思っているかはともかくとして。
そんなワケもあって、ネット上での名前で呼び合うのが普通。
けれど今日だけ、本名で過ごすことを彰子はまず提案した。
「それが今日一日ゴチる条件。でも、構わないよね?」
お互いスネに傷持つ身だし。
「ねえ、朋華ちゃん?」
ちなみに、お互いの本名を教えあったことはない。
しかし、互いにそれを知っていることも、知っている。
「……わかったわ」
複雑な胸の内を示すような長い長い沈黙の後、ようやく朋華はそう了承した。
「よかった。じゃ、早速行こうかっ」
全店舗制覇〜。
と、彰子はムチャなことを言って歩き出す。
up date:2008/12/05
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
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