魔女の箱庭

□1:ハーブと放浪者
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魔女の箱庭
〜 Trinity Garden 〜



〜アルマースの冒険者たち〜

1:ハーブと放浪者



 さて、最初の冒険を始めよう。

 ここはドリーフック大陸の南端に位置する港町アルマース。
 周囲の海は時に酷く荒れることもあるけれど豊かな漁場であり、大陸間の交易拠点としても賑わう豊かな町だ。

 この町には近隣の集落にも名の知れた子どもたちがいる。
 それがライクン家の3兄弟───姉のアインと双子の弟たち、ドスとサン。

 アインの白金色の神はこの世界の創造主《白魔女》の祝福を受けたと言われ、彼女自身も周囲の言葉に相応しくあるような振る舞いを心掛けている。
 ドスは無鉄砲な子ども特有のイタズラを度々仕掛けては町の人々を慌てさせ、サンはそんな兄弟たちが巻き起こす騒動の収拾に奔走している。

 彼らライクン家の3兄弟は学び舎で一通りの教養を習得すると、町の人々から所用を引き受ける仕事───いわゆる便利屋を始めた。
 とは言ってもまだ年若く経験の足りない彼らへの依頼は、近隣へのお使いだったり子守りだったりと日常的なお手伝い程度の事ばかり。
 世界を巡る冒険譚を夢見ていたドスの不満をよそに、3兄弟はそれなりに忙しく充実した暮らしを営んでいる。



 今日も依頼───港の倉庫で積み荷の仕分け作業の手伝いを終えた3兄弟は、自宅へ戻る前に明日の依頼の確認と夕食を取るために馴染みの食堂、スノウバル亭を訪れた。

 スノウバル亭はアルマースの大通りに面した交易で町に立ち寄った人々が宿泊する部屋も備えた食堂の1軒で、3兄弟は物心つく前から両親とともに通う常連客である。
 女主人のリネン・ミールが家族の手を借りて切り盛りする店は大きくはないが、家庭的でボリュームある食事と清潔で居心地の良い店内が人を呼び、早朝から深夜まで客足の絶えない繁盛ぶりだ。

 3兄弟は便利屋の窓口をリネンに頼んでおり、依頼や用事で留守にしていても依頼は受けられるようにしてある。
 もちろん定期的に仲介料を納めているし、食事はスノウバル亭でとるのが日常化していた。

 今夜はまだ日暮れ前ということもあり、いつも客で溢れている店内もいくつか空席がある。
 アインのお気に入りであるテラス席の一番奥に陣取った3兄弟はテーブルの間をくるくると踊るように行き来する手伝いの少女にそれぞれで夕食を注文し、女主人のリネンを呼ぶように頼む。
 いつものことなので少女も快く請け負い、また軽やかな足取りで厨房へ向かった。

 待つこともなく、まず食前酒代わりにハーブと果汁で爽やかな風味をつけた冷水が水差しで運ばれ、3兄弟は喉を潤しながら今日の依頼について語り合う。
 初めての仕事ではなかったから取り立てて留意することも反省もなく、ただ落ち着きのないドスの失敗が話題になるぐらいだ。

 瑞々しい果物を食べやすく切り分けて盛り付けた鉢と、香辛料を利かせて香ばしく焼き上げた羊肉の塊から薄く削いだ肉を山盛りにして骨髄を煮詰めたソースをたっぷりかけた皿が3兄弟のテーブルに置かれると、アインは今日の糧と1日の無事を感謝する祈りを捧げ、弟2人は早速薄切り肉に手を伸ばす。
 特製のソースまでパンで拭っているので、食べ終わった皿は洗ったようだ。
 アインは果実酢のソースをかけた白身魚のフライも頼んでいるが、半分はドスが片づけるし、果物の鉢の残りもサンが請け負っている。
 
 
up date:2013/09/08
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]

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