短編小説

□ほんとうの魔王
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ほんとうの魔王






 昔々、世界の果ての果てに小さく貧しい国がありました。

 近隣国で最も豊かな国の王様がその小さく貧しい国を訪れると、小さく貧しい国の王様は豊かな国の王様を殺し、更には豊かな国まで滅ぼしてしまいました。

 小さく貧しい国の卑劣な手段と急な侵略に次は我が身かと騒然のなる世界の国々とその支配者そして民たちへ、小さく貧しい国の王様は一つのお触れを出します。

『我は豊かな国の王より魔王の称号を賜った。その返礼として彼を神の下へ返し、王を失った彼の国を我が統べることとする』

 この度の侵略の経緯を記したお触れには、魔王となった小さく貧しい国の王から世界の国々への挑戦とも言える言葉が続きます。

『我と我が国を脅威と見做す者に告ぐ。一国につき一人、若者に世界を巡らせ、最後に我が国我が元へ参らせよ。見事、魔王を討伐せし者に我が国を差し上げる。無事、故国へ帰り着き者は勇者と呼ばれるだろう。そして全ての真実を悟り行動した者へ賢王の称号を贈ろう』
 
 このお触れに世界中の王様たち、そして野心があり腕や頭脳に覚えのある若者たちは一斉に色めき立ちました。
 見事、魔王を討伐出来れば魔王の領土は自分の物です。
 そしてきっと勇者を輩出した国と世界を救った王の名は未来永劫素晴らしい英雄譚として語り継がれるでしょう。

 けれど、魔王からのお触れはそれだけではありませんでした。

『ただし、我が元に辿り着いた若者が我に剣を向けておきながら我を倒す事が出来なければ、一人につき一国を我が領土としよう』

 なんということでしょう。
 お触れは魔王から世界中の国々への宣戦布告だったのです。

 魔王が治める領土に隣接する国々は慌てて勇者となる若者を旅立たせました。
 だって誰かが魔王の討伐に失敗する度、自分の国が魔王の領土にされてしまうかもしれないのです。
 魔王は世界を巡らせろだの言って来ましたが、そんな悠長な事はしていられないとばかりに、その国で一番強い騎士を魔王討伐へと向かわせました。

 一方で、魔王の領土から離れた国々の王もしっかりと勇者となる若者を選び、旅立たせました。
 他の国が慌てて勇者を送り込み魔王に返り討ちにされれば、それだけ魔王の領土は広がります。
 魔王が世界を支配してしまってから自分の国の勇者が魔王を討伐出来れば、そのまま世界はその国の物となるでしょう。
 しかし、あまりのんびりしていると別の国の勇者に先を越されてしまうかもしれませんし、自分の国が魔王の領土にされてからでは意味がありません。
 王様たちは自分の国の勇者が急ぎ過ぎず、けれど他の国に遅れる事なく旅をするよう言い含めて送り出したのです。

 一方、勇者のとして故国から魔王討伐の為に送り出された若者たちにも様々な思惑がありました。

 たとえば子沢山な王家に産まれて没落貴族の養子にされた末の王子は魔王の領土を得て、王として自分を見捨てた王家や貴族たちを見返そうという野心がありました。
 とある国の剣闘士は奴隷の身分ながら愛した人と自由になれる事を望んでいました。
 またある国の学者は世界を渡り歩く事で見聞を広められると喜んでいました。

 他にも見た目ばかり良く甘やかされて自分が強いと錯覚していた馬鹿王子だとか、なんでも金銭で解決できると思い込んだ商人の馬鹿息子だとか、魔王の地位に成り代わろうと目論む卑怯な者。
 
up date:2015/01/20
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
(http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/)

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