短編小説
□よき読書感想文の書き方
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よき読書感想文の書き方
30も半ばを迎えた女の独り身。
暇な本屋で週に3日、店番をしていれば食べていける。
気楽なものだ。
ただ夏休みも残りわずかになると、留美子は急に忙しくなる。
と言っても、知り合いの家を回ってそこの子供たちと1〜2時間話すだけ。
今日の夕方は妹の由美子に頼まれて甥っ子たちの相手をする。
呼び鈴を鳴らすと、待つことも確認することもなく、ドアが開いた。
「留美子姉〜」
飛びついてくる姪のはるかは今年、小学校にあがったばかり。
ちょうど階段を下りてくるところだった智明は小学3年生。
「こんばんは、ともくん。はるちゃん、待って」
ぴょこんと会釈する智明の脇を、はるかに引きずられ留美子も上がりこむ。
リビングに入るとキッチンから母親らしい振る舞いが板につき始めた由美子が顔を出した。
「姉さん、いらっしゃい」
「こんばんは、由美ちゃん」
これ、お土産よ。
昔から2人ともが好きだった洋菓子店の箱を渡すと、お決まりのように気を使わなくていいのにと返る。
「こっちが頼んで来てもらったのに、悪いわ」
こういった大人ぶったやりとりを姉妹でするのは照れくさく、留美子は苦笑するしかなかった。
「あたしが食べたかったのよ。こういう時でもないと、買いにくいでしょ」
「……うん。ありがと、姉さん」
一瞬、何かを言おうとして黙った由美子は、後でお持たせで出すわねと笑って箱ごと冷蔵庫へなおした。
「留美子姉〜」
待ちきれないといったはるかの声にはいはいと答え、留美子はリビングのソファに座る。
テーブルを挟んで智明とはるかは床にぺたんと座った。
2人の前にはそれぞれ1冊の本とメモ代わりの自由帳、筆記具が準備してあった。
由美子が冷えた麦茶を3人分並べながら、ちゃんということ聞くのよ、じゃあ姉さんお願いね、と言い置いて夕飯の仕度に戻っていく。
「さて、始めようか」
「留美子姉せんせぇ、よろしくおねがいします」
可愛いことを言って、ぺこんとはるかが頭をテーブルに押し付ける。
頭を下げるなんてものじゃない。まるでテーブルに頭突きをするような勢いだった。
肩をすくめるような智明の会釈は、彼の父親と良く似ている。照れ屋で無口、それから少し猫背のところ。
微笑ましい2人に思わずくすりとこぼれる笑いをこらえ、留美子は背筋を正した。
真剣な2人に応えるために。
up date:2008/12/03
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
(http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/)