短編小説

□愛のくらし
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愛のくらし2
〜Do you love me? 〜




 裕美さんの認識によれば、僕らの世帯主はソーコちゃんらしい。

「ハズバンドっていうのは夫じゃなくって、その家の財布を管理する人間のことなの」

 だからウチではソーコがハズ。

 物知りな裕美さんは断言する。

 確かに僕らの中ではソウコちゃんの経済観念が一番しっかりしている。

 僕は数字とか税金関係はからっきしだし、裕美さんは意外にずぼらで金遣いも荒い。

 これまで、そして今、実際に家計を掌握しているのは他でもないソウコちゃんだ。

 だとしたら、この家のワイフ──ソウコちゃんのパートナーはやっぱり、裕美さん。

 ということになるのだろうか。

 僕の素朴でちょっと切実な疑問に、あっさりと嬉しそうな答えが返る。

「そうよ」

 こういう時の、堂々と迷いなく、誇らしげに2人の関係を肯定する裕美さんは──失礼だとは思うけれど、男らしくてかっこいい。

「じゃあ、僕は……」
 
 ソウコちゃんと裕美さんにとって、僕はなんなのか。

 何しろ僕らの関係は複雑だ。

 僕と婚約者のソウコちゃん、そしてソウコちゃんのルームメイト裕美さんとは、普通と少し違った三角関係にある。

 実はこの質問の返答には、ちょっと期待もしている。

 当初はあきらかに僕を牽制していた裕美さんも、この頃は普通に接してくれるようになった。

 どうやら裕美さん、僕の好き嫌いの少なさと豪快な食欲だけは好ましく思ってくれているらしい。

 ただこの場合、なんて言われたら喜ぶべきなんだろう。

 お手伝い……とかじゃないし、ただの同居人とかは悲しい。

 でもペットとか言われるよりはいいか。

 そんなことをぐるぐると考えている僕をまじまじとみつめてから、裕美さんは意地悪く言った。

「朗はオマケでしょ」

 分かってはいたけれど、ショックだった。

 ひどいよ、裕美さん。

 僕たち3人の生活が始まって3ヶ月目のことだ。



 表向きには、婚約者同士の和久井朗と万木爽子、そして彼女の親友であり5年来のルームメイト牛尾裕美の共同生活。

 傍目には奇妙に映るだろう。
 
 事実、奇妙以外の表現が当てはまらない。

 何故なら僕は──裕美さんの認識を確認するまでもなく、オマケでしかない。

 実際に夫婦生活(らしきもの)を営んでいるのはソウコちゃんと裕美さんだからだ。

 だけどやっぱり、いくらなんでも、面と向かってオマケって言うのはヒドイ。

 僕にしてみれば裕美さんのほうこそオマケなのに。

 それもお見合い相手の女性についていた、彼女という予想外で被害甚大なオマケ。

 思えば、お見合いの席で5年も同棲している恋人の存在をちらつかせ、言外に破談へ持ち込もうとしていたソウコちゃんに興味を持ってしまったのがいけない。

 最初はどんな男なんだろう、という興味本位でしかなかった。

 例えお見合いを断るための芝居だったとしても、本当に事実だったとしても、ソウコちゃんの恋人として裕美さんを紹介された時点で、僕は撤退すべきだったんだ。

 さりげなく、ドラマの話にすりかえて、現状を同僚に相談したこともある。

「そういうのはさ、男のヨさを教え込むのが、醍醐味ってもんだろ」

 スパイ映画にでも憧れているのか、卑猥な冗談が返った。
 
 


 
up date:2009/01/06
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
(http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/)

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