短編小説

□放蕩王子
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放蕩王子





 昔むかしのお話です。



 ぼろをまとった旅人が、よろよろと自分の国への街道を歩いていました。

 実はこの旅人、何年か前にお父様である王様からたくさんの財産を譲り受け、修行の旅に出ていた王子様なのです。



 修行といっても、この王子様は王族としての窮屈なしきたりから逃げ出すための口実だったのでしょう。

 国を出たとたんに王子様は放蕩三昧をはじめたのです。



 例えば、酒場の美しい踊り子に高価な宝石を買い与えました。

 それから魅力的なジプシー女に豪華な衣装を作り、愛らしい牧場の娘に立派な家畜を贈りました。

 それだけでなく、悪い友達と酒に酔っては無謀な賭けをして、過ごすようになったのです。



 そうして、長い月日の間に王子様は全ての財産を使い果たしてしまいました。



 こうなると、もう誰も王子の相手をしてはくれません。
 
 酒場の踊り子も、ジプシー女も、牧場の娘も、悪い友達も、みんな王子様のお金がだけが目当てだったのです。

 お金も友達も失ってしまった王子様は考え抜いたあげくに、このまま1人で生きていくこともできないので、恥を偲んで国に帰ることにしました。



 そして、もしも王様の許しを頂けるなら、今度こそ真面目に働いて、国の為になる人物となろうと決意しました。



 さて、王子様が自分の国の領内に足を踏み入れると、恐ろしい光景が広がっていました。



 緑の草原も、澄んだ小川も、豊かな農地もすっかり荒れ果ててしまっていたのです。

 王子様は大急ぎでお城へと戻って、再び驚きました。



 城壁は多少崩れてはいましたが、お城だけは昔のままです。

 衛兵や侍従たちも、もちろん王様も、昔と変わらず王子様を迎えてくれました。

 そして、その夜は王子様が長い修行の旅から戻ったお祝いの宴が盛大に開かれたのです。



 翌朝、旅人は崩れ落ちた城の前で目を覚ましました。

 王子様の国は、大きな戦争のせいでとっくに滅びていたのです。

 旅人に残されたのは、壊れた王冠だけでした。
 
 


*この作品はBLOOD CONTRACT発行「パラミシア」に収録された濱田都原作、晴嵐海魔さん作画『放蕩息子』に手を加えたものです。
濱田都 

 
 
【了】
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2001年4月
 BLOOD CONTRACT発行
 パラミシア「放蕩息子」原作
最終更新:2009/01/07


 


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