短編小説
□太陽王
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太陽王
これはまだ、世界が回り始める前の出来事です。
大地には天の炎に照らされた明るく豊かな土地と、わずかに空が光った暗く冷たい土地とがありました。
力の強い者、知恵の利く者、そんな人々に取り入ってうまくやっていける者たちは暖かで豊かなよい土地に住むことができました。
けれど彼らに馴染めず、忌み嫌われた者たちは冷たく荒れた土地へと追いやられていきました。
それでも、人々は冷たく実り少ない土地で、生き続けていったのです。
やがて、長い年月が経ち、豊かな土地の人々は王を立てて、王国を築きました。
同じように、荒れた土地の人々も国を造り、女王を立てていました。
更に時が過ぎ、幾代目かの王と女王の時代のことです。
これまで豊かな土地に限りない恵みを与えてきた天の炎が、災厄をもたらすようになっていたのです。
灼熱が大地を焦がし、川を干上がらせ、風は砂を含んで吹き荒れたのです。
父王にも操れぬ天の炎に、荒れた国の女王が呪いをかけたのだと本気で信じていたのです。
彼は多くの兵士を募り、たくさんの武器を何頭もの馬で運び、荒れた土地へと向かいました。
もう1人の王子は女王を憐れに思っていました。
父王が天の炎を操れぬように、彼女にもそれはできないと分かっていたのです。
彼はわずかな荷を背負い、心許した2人の友だけを連れ、船で荒れた土地を目指しました。
2人の王子の旅は長く苦しいものとなりました。
恐れる王子の行く手には静かな砂漠が待ち構えていたのです。
初めて訪れる砂漠では誰も方向は分からず、持っていた以外に食べる物も飲む物もなく、てりつける炎に次々に馬と人は倒れてゆきます。
たくさんの武器は重く、馬はすぐにいなくなり、やがて多くの兵士も逃げていきました。
哀れむ王子の前では逆巻く波が行く手を阻みます。
潮の流れに方向を狂わされ、波に船を壊され、とうとう別の土地へと打ち上げられてしまったのです。
けれど2人の友は王子を守り、風を読む術と海を渡る術を持った2人の娘の助けも得ることができました。
そしてついに、憐れむ王子は荒れた土地へとたどりついたのです。
王子と2人の友と娘たちは、荒れた土地を目にして驚きました。
女王の治めるこの土地でも、天の災いが起こっていたからです。
山々の雪は深く、川や沼や湖だけでなく海までもが凍っていました。
暗い森には民が暖をとるための薪にできるような枝さえなく、暖かな毛皮をとれる獣の姿もありません。
この国で口に出来るのは塩づけにした肉か魚だけです。
けれど、それもすぐになくなりそうでした。
ただなによりも王子が驚き悲しんだのは、この国の民もまた、この凶事を豊かな土地の王の呪いと考えていたからです。
王子はどうすれば2つの国と民を救えるのかを考えました。
そうしているうちに、ついにもう1人の王子もが、この荒れた土地へとたどりつきました。
けれどもはや軍も兵もなく、凍てつき傷ついた王子はただ1人きりです。
この国の民は傷ついた旅人を豊かな土地の王の子とは思わず、手厚くその傷を癒しました。
ただこの王子は、貧しいながらも精一杯の介抱を受けながらもなお、どうやってこの国の女王を滅ぼすかを考えていたのです。
up date:2009/01/07
write by Hamada.M.《蛙女屋携帯書庫》
(http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/)