短編小説

□マーダー
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マーダー






 この手、指先が一体どれほどの生命を奪ったのか。



 最初の頃の事は、よく覚えていない。

 無我夢中だった。

 とにかく殺した。

 殺して死なせてまくった。

 印象が薄いと感じたら、似たような人物を似通った手で何度も何度も。

 時になんの意味も持たせることなく、実にあっさりと無数の罪なき人々を葬り去った。

 しまいには面倒になって、自らの分身とも言える存在まで消してしまった。

 男と女も区別なく。

 老いた人も幼い者も容赦なく。

 殺してきたというのに、誰に責められることもない。

 罪人として罰せられるどころか、英雄のごとくもてはやされる。



 なんてことだ。

 世界はそんなに人殺しを求めているのか。



 まあ、物語の中にではあるが。


 〜悪しき手、
  又はある物書きの述懐〜
 
 
【了】
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2008年3月15日
ブログ『日々是空想科学日和』
最終更新:2009/01/08


 


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