短編小説
□ゴースト
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ゴースト
空は学校から帰るなり、ソファに寝転がってメールを打っている。
思いついた文章を打つのは早いのだが、途中まで打っては消してを繰り返す。
ラブレター……いや、ラブメールだそうだ。
まったく、まだ小学校に上がったばかりだというのに。
「はぁ。もぉ、カヨさんにたのんじゃおかなぁ」
携帯を投げ出して、おやつのクッキーにかじりついた。
「カヨさんって?」
聞き覚えのない名前に、紅茶を淹れてやりながら尋ねる。
「ラブメ、代わりに打ってくれるんだって」
空も友達から聞いただけなようだ。
自分と相手の名前や関係をメールで知らせると、ラブメールが代打されてくるらしい。
「気をつけなさいよ。そう言ってあんたたちの情報悪用する人もいるんだから」
母親らしくたしなめれば、分かってるよぉと返事だけはいい。
「でも、懐かしいなぁ」
私は中学生の頃だったし、まだ携帯電話もメールもこんなに普及していなかった。
けれど、空のように恋心を綴るのに一所懸命になった時期は確かにあった。
「お母さんも昔、ラブレターの代筆頼もうとしたかなぁ」
空はやっぱりね、という顔をする。
「その人も、カヨさんって言ったのよ」
【了】
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2008年2月25日
ブログ『日々是空想科学日和』
最終更新:2009/01/08