短編小説

□シード
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シード
〜魔王の種子〜





 ネイディー帝国辺境の地、ケイヴ領。
 高く険しい山脈の奥、多くの魔物の巣くう迷宮の底。
 太古より魔王の存在は帝国の民の不安であり、歴代皇帝の悩みの種であった。

 各地の領主は皇帝への忠誠からか、時々に腕の立つ騎士や戦士を育て、魔王討伐へ送り出す。
 けれど、見事、悲願を果たして帰還した者はない。
 多くの者は帰らず、わずかに戻った者も旅の過酷さにか口を閉ざす。

 だが彼らはついに今、長く苦しい旅の果てにたどり着いたのだ。

 けれど、地の底深くに在ったのは、恐ろしく強大な魔物の王ではない。

 黒く艶やかな石造りの玉座に座る男の額には、鈍く輝く赤い石。
 言い伝えの通りならば、それこそが魔王の力の源だ。

 人の欲望や野心、嫉妬や恐怖、そう言った心を凝縮した忌まわしき宝石。

 魔王の証しを額に戴く男は、酷く憔悴していた。
 
 身につけている鎧の紋章は、随分と古び傷つき掠れているが、確かに帝国領のもの。

 死力を尽くしてたどり着いた勇敢な者ならば悟るだろう。

 魔王とは、人の罪。
 その物だったのだと。
 
 
【了】
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2008年2月8日
ブログ『日々是空想科学日和』
最終更新:2009/02/27


 


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