短編小説
□シード
1ページ/1ページ
シード
〜魔王の種子〜
ネイディー帝国辺境の地、ケイヴ領。
高く険しい山脈の奥、多くの魔物の巣くう迷宮の底。
太古より魔王の存在は帝国の民の不安であり、歴代皇帝の悩みの種であった。
各地の領主は皇帝への忠誠からか、時々に腕の立つ騎士や戦士を育て、魔王討伐へ送り出す。
けれど、見事、悲願を果たして帰還した者はない。
多くの者は帰らず、わずかに戻った者も旅の過酷さにか口を閉ざす。
だが彼らはついに今、長く苦しい旅の果てにたどり着いたのだ。
けれど、地の底深くに在ったのは、恐ろしく強大な魔物の王ではない。
黒く艶やかな石造りの玉座に座る男の額には、鈍く輝く赤い石。
言い伝えの通りならば、それこそが魔王の力の源だ。
人の欲望や野心、嫉妬や恐怖、そう言った心を凝縮した忌まわしき宝石。
魔王の証しを額に戴く男は、酷く憔悴していた。
身につけている鎧の紋章は、随分と古び傷つき掠れているが、確かに帝国領のもの。
死力を尽くしてたどり着いた勇敢な者ならば悟るだろう。
魔王とは、人の罪。
その物だったのだと。
【了】
濱田都《蛙女屋携帯書庫》
[http://id54.fm-p.jp/133/ameya385/]
初出:2008年2月8日
ブログ『日々是空想科学日和』
最終更新:2009/02/27