第1部
□とある日の旅人達
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季節の変わり目は寒暖の差が激しかったり
気候が不安定だったりする
特に旅をしているとまたその土地によって気候が違うのでそれに身体がついていけず、体調も崩しがちだ
どんなに体調管理をきちんとしていて気をつけていても、だ
*‥*‥*‥*
「やっと着いたね!お腹空いたー…。ね、先にご飯しよっか?」
サヤはぱたぱたと軽快な足音を立てて城門をくぐり
キノとエルメスに振り返った
『ちょっと、サヤー!次の国に着いたらまずは部品を揃えて整備してくれるって約束だったじゃん!』
「だって、腹が減っては戦はできぬ、だもん。ね、キノもそう思うでしょ?」
「………ああ、そうだね…」
キノはたっぷり間を置いて返事をした
その様子は疲れているというか、ぐったりしている、と表現した方が正しいかもしれない
「どうしたの、キノ?」
サヤは心配そうな表情でキノの顔を覗き込む
「いや…今朝から頭痛がするんだ。あと、少し寒気が…」
と、キノはけだるそうな面持ちで言った
「ええっ!?もしかして私の頭痛が移っちゃったのかな…じゃなくて、風邪引いたのかな?」
サヤは熱を計る為、自分の額とキノの額を押し当てた
キノは驚いてエルメスのハンドルを離してしまいそうになる
「熱い…、これ絶対に熱があるよ!」
大変!と先程門番から貸してもらった市街地の地図を広げて指でなぞるように何かを探した
しばらくしてある一点で止まる
「まずは先に宿だね。早くちゃんとベッドのある所で休まなくちゃ。風邪は悪化する前に治すのが一番だからね。とにかくこの先の通りの脇に宿があるみたいだからそこに行こう」
そう言ってサヤはキノの代わりにエルメスを押した
そこまでなら運転するよ、とキノがサヤからエルメスを取り返そうとしたが―
『キノ、そんな身体で運転するつもり?やめておいた方がいいと思うよ』
エルメス本人に運転するのを却下された
「ここは私が運転するとこなんだろうけど…。モトラドを運転した事ないし、私だけじゃエルメスに乗れないし…」
ごめんね、と言ってエルメスを再び押した
*‥*‥*‥*
チェックインを済ませ、通された部屋に着く頃にはキノの熱も上がっていた
キノは座ってて、とサヤはエルメスをセンタースタンドで止めて
エルメスの後輪脇から自分のとキノの鞄を下ろした
「えっと…まずは薬と着替えとタオルと…。あっ、お湯持ってこないと!」
鞄の中をごそごそと漁っていたかと思えば
バスルームに行ったりと慌ただしく動いていた
とりあえずキノは常備薬で持っていた市販の風邪薬を飲んで
汗をかいていたので身体を拭いてから着替えを済ませ、ベッドに横になった
自分でやるから平気だ、と言ってもサヤは聞き入れてくれず
結局、全部手伝ってもらってしまった
『にしてもキノとあろう方が風邪を引くなんてね』
「しょうがないよ。ここのところ季節の移り変わりで気温の差が大きかったもん」
サヤは表情を曇らせ、絞った濡れタオルをキノの額に乗せて言った
「何か必要な物とか、してほしい事があったらなんでも言ってね」
「それはありがたいんだけど…」
と、キノは言葉を濁した
「??」
「できればあまりボクの近くにいない方がいいよ。もし、ボクの風邪がサヤに移ったら大変だ」
「そんなの心配ご無用だよ。最近はすっごく体調がいいんだから」
サヤは頑として引き下がらなかった
これではいつもと立場が逆だな、とキノは思った
「…普段は私がキノにお世話になりっぱなしだから。キノは気にしてないって言ってくれたけど、やっぱり私はキノの為に何かしたいなって」
「サヤ…」
『そうそう。サヤっていつもキノにはどーんと頼ってほしいなあ…って、言ってるよ。あとはたまには甘えてほしいとか…』
「!!エ、エルメス、しーっ!これ以上話したら改造してやるんだからっ」
サヤは慌てた様子で口元に人差し指を当てた
エルメスはじゃあ、今日はこの辺で勘弁してあげましょうか、と悪者のような台詞を言うと黙ってしまった
―まだあるのか
キノは聞いてみたい気もしたが、尋ねてもきっとサヤは恥ずかしがって顔を真っ赤にするだけだろう
「…キノ」
「何だい?」
「……やっぱり、傍にいちゃ駄目?」
と、こちらを遠慮しがちに見てくる
「いや…ここはサヤのお言葉に甘えようかな」
「うん!」
沈んでいた表情から一転して
今度はぱっ、と花が咲いたように笑顔になった