ヴェスペリア連載番外小説

□好きという気持ち
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軽いキスくらいなら小さい頃に何度かしたけれど、それは子供同士のかわいいもので、冗談混じりでフレンとだってした事がある

成長して、キスの意味を知った今では軽はずみにはしてはいけない、と理解している

そして、その先の行為の意味も―


だからリーフは先程のユーリの行為の意味がわからなかった


(きっとからかわれたんだわ。私はユーリにとってただの幼なじみなんだから。私だって、ユーリを恋愛対象として見た事…ないし)
昔からそうだった
ユーリは何かとちょっかいを出してきてはリーフの過剰な反応を楽しんでいた
だからさっきだってちょっとした悪戯にしかすぎないのだ

そこまで考えて、ズキ…と何故か胸が痛んだ


どうしてだろう?
なんだか胸がとても痛む

別に傷付く事ではない筈なのに…


「…リーフ…おーい、リーフ」
「は、はい!?」

ユーリの声にぼんやりとしていた意識が引き戻される

「んで?オレは何すればいいんだって聞いてんだけど」
「あ、えと…?」
「パイ生地も焼けたみたいだし、あとは仕上げだけだろ?分担してやった方が早く食えるだろ?」
「え、ええ…そうね。じゃあ、ユーリはお皿出して」
「なら、僕も何か手伝うよ!」
「おっし、テッドはオレの部屋のテーブルを片付けてきてくれ」
「うん、わかった!」

ユーリがお願いするとテッドは元気よく返事をし、厨房を飛び出した
よっぽどお菓子を食べるのが楽しみなのだろう

お菓子を楽しみにしているといえばユーリ、もだ

「皿はどれにすっかな…」

食器棚の前でうーん、と悩むユーリはリーフの知るいつものユーリだった

さっきの事について何も言わないし、もう何もしようとしない

まるで先程の出来事など何事もなかったかのようだ


あの時、ユーリはどうしてあんな事をしたのか?
もし、テッドが来ないままだったら本当に最後までするつもりだったのだろうか?


やはり好き、だからあんな事をしたのだろうか…
ユーリはどう思っているのだろう?


恋愛としての好き?
友情としての好き?


リーフは聞きたくても聞けなかった
彼が返す答えを知るのが怖い

(怖い?どうして怖がる必要があるの?ユーリなんだから軽く聞けばいいのに…)

考えれば考える程に色んな事がぐるぐる頭の中でまわって分からなくなってきた

「な、やっぱリーフが選んでくれよ。オレは仕上げの準備すっから」
「うん…」
「………」

返事はするものの、とても何かをする気分にはなれななかった


はあ…とため息をついたユーリの手がすっ、とリーフへと伸ばされる


―もしかして、また?


リーフは身体を強張らせ、目をぎゅうっと固く閉じる

が、リーフの予想は翻された

くしゃくしゃと撫で回される頭の感覚
目をゆっくり開けると優しい表情をしたユーリの姿

「そんなに警戒しなくたってもう何もしねーよ」
「ユーリ…」
「…お前がいいって言うまでは、な。…はあ、オレ、焦りすぎだろ…」
「え?よく聞こえないんだけど」
「なんでもねーよ。ほら、それより早く仕上げ仕上げ。美味いものを前に飢え死には嫌だからな」

と、ユーリは再度リーフの頭を撫でる

(どうしてユーリはいつもそうやって優しくしてくれるんだろう…)


リーフは胸の奥が熱くなった
焼け付くような、切ない感情が胸を満たしていく



(…わたし…は…ユーリが好き…でも、この気持ちは…)



彼を想うだけでどんなに困難な事でも乗り越えられる―なんだってできる気がする

優しい気持ちになれる
幸せな気持ちになれる
笑顔になれる



この気持ちがはたして恋愛感情なのかどうかはわからない


けど―


「お皿はこれにしましょ。あと、ラズベリーでソースを作ってかけようと思うんだけど…」
「いいな、それ。裏ごしは任せとけ」


自分の気持ちとユーリの気持ち


それはまだ知らなくていい―いや、もしかしたら、知ってはいけないのかもしれない


でも、リーフはそれでもよかった


変わらない想いを抱き続けることでこうしていつものように笑って彼の隣にいられるのなら


今は、まだもう少しだけ、このまま―



《好きという気持ち―END》



『なあ…オレの分、少なくないか?』
『あら、気のせいじゃない?』
『気のせいっていうか、あきらかに違うだろ!?』
『たかがデザートの分配くらいで…器の小さい男は嫌われるわよ』
『おいしー。やっぱリーフの作るお菓子は最高だね』
『おかわりもあるからたくさん食べてね!』
『理不尽だ…』
『何言ってるの、自業自得よ』



《好きという気持ち―END》




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