第1部

□心と記憶繋ぎ止めるカタチ
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*‥*‥*‥*
「はぁっ…はぁ…」

暗闇に包まれた街をサヤは休まず走っていた
息は切れ、胸は張り裂けそうな程に脈打っている
サヤはそれでも走るのを止めなかった

『そうやって兄さんの事も見殺しにしたんだ』

先程言いかけた言葉が浮かんで消えていく

(私はキノにどうしてあんな事を言おうとしてたの?)

自らの内に生まれた言葉にサヤ自身戸惑っていた

彼の事はもう済んだのではなかったのか?
キノから全てを聞き、完了したというのに

「……ッ!」

奥深くまで探ろうとしたが、激しい頭痛に襲われ中断しざるをえなかった

「はぁっ…は…違う…違うよ…」

サヤは立ち止まりとめどなく溢れる涙を拭いて一人呟いた

「…!!」

―複数の人間の気配がした
しかも、普通じゃない

サヤは目を見開いてとりあえず泣きたくなる感情を一時振り払い、パースエイダーに手を添えた

若い男が三人、こちらへ歩いてくるのが見えた
そのうちの一人の手元がほんのり光っている

サヤはすぐにそれが落としたペンダントだと分かった
ペンダントにあしらわれているのはどこかの国でしか採れない貴重な鉱石らしく、暗い場所でも微かに光るのだ

「…………」

サヤは高鳴る鼓動を抑えながら男達に近付いた

「すみません」
「うん?」
「そのペンダント、どこで手に入れましたか?」
「市場通りに落ちていたんだ。なかなかの上物だろう」
「それ、私のなんです。返していただけますか?」
「お断りだな。道端に落ちていたのを拾ったんだから今は俺の物だよ」

男は真面目に取り合ってくれなかった

「もう一度言います。そのペンダントを返してください」

サヤは繰り返し言った

声は尋常ならぬ怒気を含み
目は鋭く、少女とは思えない威圧感のあるものだった

「し、しょうがねぇな。ほら」

気に圧されつつ男は不機嫌そうにずいっと鎖をサヤの前へ突き出す

(良かった…!兄さんのくれたペンダント……見つかった…)

ほっと胸を撫で下ろし蒼い宝石を両手で包もうとした時、こめかみの部分に冷たく硬いものが当てられた

「…なーんてすんなり返すと思ったら大間違いだぜ。お前、警戒心が足りないんじゃないか?」

横目で見るともう一人の男がにやにや笑いながらパースエイダーを構えていた

しまった、と気付いた時は既に遅く、背中を壁に押し付けられてしまった

「へー、こうして見るとなかなか可愛いじゃん」

男はサヤの顎を掴みぐいっと上を向かせる

このままやられっぱなしでたまるか、とサヤはスカートの中に忍ばせていたナイフを取り出したが―

「おっと、危ない」
「きゃあっ!」

三人目の男がサヤの手首を捻って同じように壁に押し付ける
サヤは痛さのあまり、ナイフを手放してしまった

「しっかり押さえてろよ。可愛い顔してやる事は物騒だからな」

両手を頭上で掴まれ、完全に身動きが出来なくなってしまう

「……………」

ふと、男の手に握られたままのペンダントが目に飛び込んだ
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