BotW夢小説

□眠れる想い
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リンクとエラトは旅の疲れを癒す為にゾーラの里に立ち寄った
夜も更けて皆が寝静まった時間に訪れたにも関わらず、宿に行くとコダーが快く迎え、部屋を用意してくれた

素材を集めたり、力をつける為に各地を巡っていた為ここ数日は強行軍だったので
柔らかなウォーターベッドに横になれば眠りにつくのはあっという間だった



*‥*‥*‥*
ふ、とエラトは目を覚ました
辺りはまだ薄暗い

(今、何時だろう…?)

エラトは横になったままベッドサイドに置かれた懐中時計へ手を伸ばす

ぎりぎり届くか届かない場所に置かれていた為、なかなか取れない
何とか指先が鎖に引っ掛かり手繰り寄せるように取った

目を細めて時間を確認すると時計の針は起きるにはかなり早い時間を指し示していた

大分眠っていた気がしたのだが、疲れていたせいで短時間の眠りでもそう感じたのだろう

エラトは時計を握り締めたままのろのろとベッドにポフンと沈み、目を閉じた

何度か寝返りを打つも先程のようにすぐには眠れない

起き上がって、ぼんやりとしていても一向に睡魔はやってこない

意識すればする程に目が冴えてしまい、とうとうエラトは諦めた

少し散歩でもしよう
そうすれば気分も落ち着いて眠れるだろう

エラトは身体が冷えないようにと上着を羽織り、部屋を出た



*‥*‥*‥*
ゾーラの里の建物は夜光石という暗い場所で光る特殊な鉱石で出来ている為、夜でもぼんやりと明るい

火を殆ど扱わないゾーラにとって夜光石は貴重な灯りの元でもあった

暗闇の中で石が放つ幻想的な蒼い光に映える美しい彫刻にエラトは感嘆の息を漏らした

流石はハイラル随一と名高いゾーラの彫刻技術だ
他の場所ではこれだけ見事な物はそうそうお目にかかれない

時折山の方から吹き下ろすひんやりした風が頬を撫でる
やはり上着を着てきてよかったと思ったが、それでもまだ少し寒いような気がした

「…明日、お兄ちゃんに叱られちゃうな」

エラトはふるりと身体を震わせ、灯りを頼りに水が張られた廊下を歩く

里の中心にある広場へ差し掛かった所でエラトは足を止めた

(シド王子…)

そこにはミファーの像を見上げるシドがいた


以前、神獣ヴァ・ルッタによって驚異に晒されていた里を救った夜
彼は今と同じように彼女の像の前に一人いた

100年前、復活した厄災ガノンによって帰らぬ人となったミファー
魂だけは残り、神獣ヴァ・ルッタに縛られていた
今はシドの協力のもと、解放されたルッタの中に留まっている

果たせなかった本来の役目を全うする為に

ゾーラの里の近く、高台に鎮座しているルッタと共に、ハイラル城で勇者がガノンと戦うその時を待っている

そんな姉を思い、自分に何か出来る事はないか、とシドは一人問い掛けていた

答えは返ってこないとシドは分かっている筈だ
もう、ミファーはここには戻れない
愛する家族や里の民に会うことが出来ないと

それでも彼は確かな答えを求めていた
為すべき事はないかどうか教えて欲しい、と

乞う表情は昼の眩しい顔とかけ離れ、どこか影を落としていて目が逸らせなかった


―恥ずかしい所を見られてしまったゾ


こちらに気付き、静かに笑う彼にエラトはなんて言葉をかけたらいいか分からなかった
隣にリンクも同じだったようで困ったように笑い、そんな事ないと言うのが精一杯の返答だった


かつての記憶を全て失くし、ハイラルの右も左も分からなかった

昔を知る相手と接する時、言動ひとつひとつが知らないうちに相手を傷付けてしまっているのではないかと不安で堪らなかった

だから、あの時、どんな言葉をかけてあげればよかったのか後悔している

あれから多くの地を訪れ
ゾーラの里と同じようにそれぞれの部族の里で厄災ガノンによって暴走していた神獣達を解放し
失われていた記憶を取り戻した


だから今ならきっと、大丈夫
そんな確かな思いがエラトにはあった

「こんばんは、シド王子」

エラトはシドに歩み寄り、声をかけた
彼女に気付いたシドはいつもの明るい笑顔で応える

「おお、エラトか!コダーから話は聞いているゾ。しばらく滞在するそうだな」
「うん。ここに着いたのは夜遅くだったから挨拶は明日にしようと思ってて」
「そうか。二人が来るのは久しぶりだからな、父上や民達もきっと喜ぶ」

笑顔でうんうん、と頷きながらシドは話す

「オレもエラト達が来てくれて嬉しいゾ。次はいつ訪れるのかと心待ちにしていてな」

真っ直ぐ過ぎる好意を向けられてエラトは思わず顔が綻ぶ

「君がいない間の日々は少し、寂しくもあったゾ」

そう言って再びミファーの像を見上げた

「…やはり、恥ずかしいものだな。我ながら女々しいとは理解していても夜になると足が自然とここに向いてしまう」

そして、問い掛けてしまうのだとシドはいつかの時に見た顔で言った

エラトは胸の辺りが締め付けられるような感覚がした

「ミファー姉さんは素晴らしい方だった。優しいだけでなく強く、里の民からはとても慕われていた」

シドの声に僅かな不安が混ざっているのをエラトは感じた

「はたしてオレは姉さんに足る王族たりえるだろうかとな」

どうすれば笑顔を見せてくれる?
彼の不安を取り除ける?

何が出来ないだろうか
何か…伝われば

エラトは意を決して口を開いた

「…シド王子。前にルッタの中でミファーの魂と会ったって話したよね」
「ああ、民やオレと父上を案じていたと…」
「その時、ミファーが言ってた。大切な人の、リンクの助けになれる事が嬉しいって。だから今度はしっかり役目を全うするって…」

どこまで気持ちが伝わるか分からない
それでも―

「ミファーはもう大丈夫。だからシド王子はここで、里と里の皆を護ってあげて。それが貴方が出来る事。ゾーラの皆にはミファーでも他の誰でもない貴方が必要なの」

エラトは自分なりに考えた答えをひとつひとつ言葉にしていく

「シド王子が積み重ねてきたものはきっとミファーと比べられるものではないから」

大切な人達を、大切な場所を護れるようにと頑張ってきたシドの姿を里の皆が知っている

「シド王子はシド王子だから…。里の皆が王子を慕っているのはミファーの弟だからじゃないよ。王子がすごいからなんだよ」

シドの瞳が少し見開かれ、そして細められる
彼は何も言わずミファーの像を再び見上げる

長いようで短い沈黙の後、彼はエラトへ向き直った




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