第1部

□雨の話
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雨が降ってきたのは突然の事だった

朝は気持ち良いくらいに晴れていたのだが
次第に雲がどこからか流れてきて空を覆ったかと思うとバケツをひっくり返したような大雨に服はずぶ濡れ

これにはキノもさすがに驚き、エルメスを猛スピードで走らせて、二人と一台は適当な木の陰に滑り込んだ

通り雨だからそんなに長い間は降らないからしばらく休憩しよう、とエルメスはお昼寝モードへ突入
キノとサヤはお互いの身を寄せ合って雨が上がるのを待つ事にした

それが数時間前の出来事

「雨、止まないね」

小さな声でキノが言った

「うん、止まないね」

小さな声でサヤが答えた

「何だかちょっと恥ずかしいね」
「そうかい?」

ほんのり頬を染めるサヤに対してキノは平然と答えた


極力濡れて身体が冷えないように、とキノのコートに二人で包まっているのだ
男性用で、サイズも大きめだったので雨水から身を守るのにぴったりだったのだ
かといってあまり離れすぎると今度ははみ出してしまうのでほとんど抱き合っているカタチに近い

「くしゅっ」
「ほら、もっと寄りなよ」

無意識に離れようとするサヤの肩をぐいっ、とさらに引き寄せる

キノの整った顔が間近で見える

「前から思ってたんだけど…キノってさ」
「?」
「なんかね、かっこいいなって」

それを聞いたキノはたっぷり間を置いてこう言った

「…………それは褒め言葉かい?」
「え…?ああっ!ごめんなさい!でも、褒めてるんだよっ。女の子なのに仕草とかかっこよくて…ってなんか違う!」

キノが怒ってしまったと勘違いしたのだろう

サヤは早口で言葉を連ねる

怒ってはいないがちょっぴり複雑な気持ちになっただけだ

しかし、これはこれで面白いので黙って耳を傾けている事にした

「でもでも!私の国にいた同い年の男の子よりはかっこいいなって…だから、その」

必死に弁解しようとするサヤの姿がおかしくて、かわいらしくて、気付いたら笑っていた

「そういうサヤは可愛くて女の子らしいよね」
「ふぇ…?」

キノは思った

自分には彼女のように振る舞えない
だが、それでよいのだ、と



*‥*‥*‥*
「雨っていいよね」

あれからしばらく―落ち着きを取り戻したサヤがふと口を開いた

「そうかい?ボクは濡れるし、走りにくいし、あんまりいいものだとは思わないけど」
「余計な音がね、なくなるの。雨の音だけになって、とっても静かで落ち着くの。そんな時に謳うのが好きなの」

「ふうん…じゃあ、何か謳ってくれないかい?」

キノのリクエストにサヤはこくん、と頷いてゆっくり音を紡ぎ出した

優しい声が水のように身体に染み渡る

それは大地に降り注ぐ恵みの雨のように―

(なんて心地いいんだろう…)

キノはサヤの歌声に身を委ねながら静かに目を閉じた
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