第1部
□胸に秘めた痛みと想いと
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気が付けば、そこに一人で立っていた
辺りは暗闇に包まれており、足元すら見えず
どこを見ても塗り潰されたような黒しか捉えられない
そこには一点の光も無かった
(わたしはだれ?ここはどこ?どうしてこんなところにいるの?)
そんな闇の中では自身の存在すらあやふやに感じてしまう
自分は本当にそこに立っているのだろうか
そもそも自分自身というのは何なのだろうか―
―サヤ‥
どこからか声が聞こえた
暖かく、優しい声が名前を紡いでいた
(そうだ、わたしは―)
声を頼りに暗闇の中、足を必死に動かす
(兄さん!キノ兄さんが呼んでる!)
長い暗闇の終点が見えた
薄明かりの中、背を向けて立っている人の姿が浮かぶ
その人物は少し汚れた茶色いコートを着ている
(兄さん…、サヤは、私はここにいるよ)
早く彼の元へたどり着きたい一心で走り
彼へ向かって手を伸ばす―
彼はゆっくりと振り向く
(兄さん…?)