第1部
□花の国
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むかし、むかし、ひとりの旅人がいました
旅人はずっと探していました
自分にとってかけがえのない『何か』を
しかし、旅の途中、旅人は大怪我を負ってしまいます
傷は深く、もう長くはないと悟った旅人は最後の力を振り絞ってひたすら歩き続けました
やがて、日が昇る夜明け前―
一面、茎も葉も真っ白な花で埋め尽くされた花畑に辿り着きます
記憶に焼き付いた懐かしい光景
そこは旅人の故郷の国の近くにある花畑でした
花畑の真ん中には少女がひとり、佇んでいました
彼女は旅人の幼なじみであり
少女はしばらく会わないうちに美しくなったようでした
声を掛けようとしましたが、声が出ず、身体にも力が入らず
旅人はその場に倒れてしまいました
物音に気付いた少女は慌てて旅人に駆け寄ります
開いて、悪化してしまった傷口
止まる事を知らぬ血は白い花をどんどん紅く染めていきます
少女は旅人が死に直面しているというのに何もできず、ただ涙を流す事しかできませんでした
そんな少女の姿を見て、旅人はようやく気が付きました
ああ、かけがえのないものはずっと傍にあったというのに…
『泣かないで。たとえ、この身が朽ちようとも君を愛する想いだけはこの花と共に永遠に生き続けるから。君を…愛してるんだ』
旅人は最後の力を振り絞って紅い花を摘み取り、少女に手渡します
少女は小さく頷き、わたしも貴方を愛してる、と微笑みました
旅人は少女の言葉を聞き届けるとゆっくり目を閉じました
その表情はとても安らかで幸せに満ちたものでした
少女は冷たくなった旅人の身体をそっと優しく抱き締めました
一滴の涙が花びらに零れ落ち
朝日の光を受けて美しく輝きます
『わたし、絶対に忘れない。どんなに時が過ぎようとも、全てを忘れてしまったとしても貴方を愛する想いだけはずっと忘れない』