第1部
□甘党の話2
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「サヤは甘い物食べてる時、本当に幸せそうな顔してるよね」
既に本日三個目になるチーズケーキを口いっぱい頬張るサヤを見ながらキノは言った
「ふぇ!?私ってそんなに顔に出てる?」
「うん。すごくね」
サヤは慌てて緩んだ表情を引き締めようとしたが、キノはそれを見て苦笑いした
「でも可愛いし、別に隠す必要はないんじゃないかい?」
「わ、私が恥ずかしいの。だってその…」
ごにょごにょと俯き気味に顔を真っ赤にさせてサヤは言う
その、何気ない仕草がとてもかわいらしくて、キノは思わず笑ってしまった
「むーっ、笑ったなあ」
なんだか小さな子供扱いされているようでサヤは少しムッとしたのだが
あのキノがあまりにも笑っているものだからそんな気持ちもどこかにいってしまい
気付けばつられてサヤも一緒になって笑っていた
「くすくす、こんなに笑ったの久しぶり」
ひとしきり笑った後、サヤは少し温くなった紅茶を飲んで一息ついた
最近は記憶の事やら頭痛の事、キノの事…色々とあったのでこうしてゆったりとした気持ちになったのは本当に久しぶりだった
「もうね、今はほとんど思い出せないんだけど、小さい頃の出来事が甘い物が大好きになったきっかけ。その時に食べた物が甘くて、おいしくて、幸せな気持ちになって…」
けれどこれだけはまだ覚えている
あの時感じた幸せ
それはとても優しい思い出
「そっか…。確かにそうだな。こうして君と甘い物を食べてるとなんだかこう、不思議と優しい気持ちになるんだ。これが幸せって事なのかも」
「………」
もし、出会ったばかりのキノだったらそんな事は言わなかったかもしれないし
そんな気持ちは抱かなかったかもしれない
だからキノの言葉を聞いたサヤはほんの少し驚きの表情を浮かべた
「サヤ、どうかした?」
「ううん、何でもない。ちょっと嬉しいだけだよ」
サヤはにっこり笑ってケーキの最後の一切れを口に運んだ
《甘党の話2―END》