第1部
□強さの秘密
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鬱蒼とした森の開けた小道を一台のモトラドが走っていた
モトラドには運転手ともう一人、少女が乗っていた
少女は運転手の腰に腕を回し、抱き着くようにして後ろの空いた僅かなスペースに座っている
「わー!すっごーい!はやーい!」
「ほら、危ないからちゃんとボクに掴まって」
モトラドのエルメスを運転しているキノは後ろに乗っている少女―サヤの腰に回された腕の力が緩くなった事を指摘する
「はぁーい」
間延びした返事が背中から返ってくる
そしてぎゅっと再び込められた力に安心し、スピードを上げた
出会った時は大人しめなイメージが強かったのだが
こうしてみると子供っぽい
無邪気な表情で目を輝かせながら辺りをキョロキョロと見ている様子はどこか小動物のような…
キノは過保護になる兄の気持ちが少しだけ分かったような気がした
「やっぱりモトラドだと速いね」
少女の声は落ち着いてはいるがまだ若干興奮気味だった
『サヤはモトラドに乗るのははじめて?』
「自転車には乗った事はあるけどね。ずっと森の奥で修行してたし、キノみたいに自分のモトラドを持ってた訳じゃないから」
「…ところで一人で旅をしていた時はどうしてたの?歩きだけじゃ限界があると思うけど」
ふっと湧いた疑問をキノはサヤに投げ掛ける
国と国の間にはかなりの距離がある
いくらモトラドで移動していても何日かは野宿をしながら進まないと辿り着けない場合もあり、人の足では体力的にも限界があるだろう
それに荷物は大きな旅行用のトランクがひとつだけ
食料に衣服や弾薬、その他、旅に必要な物資を満足に積めない
長旅をする以上、食料は特に大事だし
少ない荷物に徒歩では国に辿り着けず、食料も尽きて立ち往生してしまうのがオチだ
あまりにも無謀な旅のスタイル
しかし、サヤはそれでもう何年か旅をしているという
その旅の途中でキノと出会ったのだ
「馬車とかかな。ちょうど国を出る行商人さんのに乗せてってもらったり。私はその代わりに道中の護衛を請け負ってね」
「ああ、成る程」
キノは納得した
そういえばそんな移動手段もあったな、と
しかし、余程腕に自信がないとそれも無謀なスタイルとも言えるが、こうして旅を続けてこられたのはサヤにそれだけの実力があったからだ
外見上からはとても想像出来ないが
『えー、なんかあんまり想像出来ないかも』
「どうして?エルメス」
『サヤって見た目弱そうだし』
「それは見た目でしょ!私、こう見えても結構強いんだよ!」
サヤの言葉と同時にキノが身体を震わせた
何ともかわいらしく言ってくれるものだからおかしくなって声に出して笑ってしまったのだ
「あ、笑った!酷い!」
サヤはものすごく馬鹿にされているようでむっ、とした
「ごめんごめん。だってボクも君を見てたらあんまり想像出来ないからさ」
「…………」
サヤは膨れっ面をしたまま顔をキノの背中に押し付け、それきり黙ってしまった
『ありゃりゃ。からかい過ぎちゃったかな』
しまったなあ、とエルメスが言う
だが、その割には声に反省の色は全くなかった