第1部
□謳う少女
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キノ達が国に着いたのはそれから二日後の朝だった
サヤが同行してからの初日以外は盗賊に襲われず平和に進めた
移動の最中、サヤはよく話し掛けてきた
話題が尽きるとたまに旋律だけを口ずさむ事もあり、キノはそんなに退屈しなかった
エルメスも話し相手が二人もいるのはいいねぇ、と上機嫌だった
そんなこんなで二人と一台は森の中を進んで行った
サヤと出会ってから数日という短期間でキノは彼女の事をいくつか知った
強い、そして様々な知識が豊富だという事
師匠の元で修行していたのだからそれは当たり前だがあそこまで高い能力はそれだけで身につかないだろうと聞いてみたところ実は幼少の頃から父親にパースエイダーの扱いを手ほどきされていたらしい
彼は事故で亡くなったそうだが、生前は機械関係に携わっていた技術者として働いていたとサヤは言う
仕事柄か、書斎の本棚には機械に関する専門書がぎっしり収納されており
小さい頃からよく絵本がわりに読んでいたそうだ
それならば、と試しにエルメスを整備してもらったところガタがきている部分を的確に見つけ出し、手際よく直してしまった
あちこちに不調があった為、修理に出そうとしていたのでタイミングが良かった
ただ持ち合わせの部品が足りない箇所はそのまま保留となってしまったが
それでも大分すっきりしたのかエルメスは嬉しそうだった
『すごいやサヤ!これなら道端で故障しても安心だね。何しろキノの運転は乱暴で…』
「それ以上言ったら蹴るよ」
『イタっ!蹴ってから言わないでよー』
「くすっ。エルメスってば、一言多いんじゃない?」
一見すごい人間な彼女だが、次に挙げる一面を見てしまってはやはりというか完璧な人間なんていないのだなとキノは思った
サヤは寝起きがとても悪い
あのエルメス以上に、だ
いくら大きな声を出しても身体を揺すっても起きてくれない
それはそれは気持ちよさそうに眠っているのだ
やっと起きた後もそれはそれでまだ意識がぼんやりしているのかふらふらと足取りが危なっかしくて見ていられない
こんなので寝込みを襲われたらどうするんだろう、と思ったがあえてそれは考えない事にした