第1部
□甘党の話
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甘い物が食べたくなり
キノ達は住民の話で評判だという喫茶店に入った
キノは真っ赤な苺がのったショートケーキ
一方のサヤは六段に重ねられた巨大パンケーキ
しかも一枚一枚がかなり分厚い
メープルシロップがこれでもか、というぐらいにひたひたにかけられている
「うわ…」
あまりの光景にキノは思わず声を漏らした
見ているだけで胸やけしそうだ
『いくらなんでもちょっとかけすぎなんじゃない?』
エルメスがキノの心中を代弁するかのように言った
「えー。これくらいじゃないと美味しくないよ。やっぱりパンケーキはシロップをたくさんかけないと」
むっとした表情で口を尖らせる
拗ねているというか、ちょっぴり怒っているというかそんな感じなのだろうが、相手に与える効力は皆無に等しい事を少女は知らないだろう
いつもだったら可愛いね、なんて軽くからかうのだがなにぶんシロップ漬け巨大パンケーキの圧力が大きい
「サヤは甘い物が好きなんだね…」
「うんっ。だーいすき」
ほくほくと幸せそうな顔で答えられてしまってはもう何も言えなかった
『じゃあ、前にキノが一人で旅をしていた頃に食べたアレなんかきっとサヤの好きそうな部類に入るね』
「ああ…あれか…」
キノはちょっぴり遠い目をした
「えっ!?どんなのっ?」
サヤが問い掛けてもキノは話そうとしなかったので代わりにエルメスが聞かせた
前に立ち寄った国の喫茶店にクレープに生クリームを塗りたくり、山のように重ねたデザートがあったという事を
案の定、それを耳にしたサヤは目をきらきらと輝かせた
「いいなー。私も食べたかった」
ぱくり、と大きく切り取ったパンケーキを口に運びながら言った
キノはそれを極力見ないようにしながらストレートの紅茶の入ったカップに口を付けた
(ん?)
ちらっとパンケーキのくずが彼女の口元についているのが見えた
「サヤ、ついてる」
そう言って自分の口元辺りを指差す
サヤは一旦食べるのを中断してぺたぺたとキノが示した所を探すが、なかなか上手く取れない
とうとう痺れを切らしたキノは腰を浮かせ、向かい側に座っているサヤの口元に手を添えた
人差し指と親指でちょいっと欠片を摘む
それをぱくり、と食べてみればシロップの甘ったるさが口いっぱいに広がった
「甘…よくこんなもの食べれるね」
「そうー?普通だよ」
至極当然、といったふうに言ってまた美味しそうに食べ始める
「じゃあ…よかったらこれも食べるかい?」
一口食べただけのショートケーキの皿をサヤの前へ差し出す
「わぁ!ありがとう」
あんまりにも幸せそうに笑って言うものだからキノもつられて笑ってしまった
《甘党の話―END》