ヴェスペリア連載小説

□出会い
1ページ/3ページ




子供には幼く、無知な為か目の前のものが大きく見える

どこまでも続く道
大きな建物
広がる蒼い空

幼い二人は下町が世界の全てだと思っていた

だから時折、母親からお使いを頼まれて家から少し離れたお店に行く事さえ大冒険だった


―ある日、幼いユーリは幼いリーフを冒険に誘った


『星を見にいこう』と


両親も寝静まった夜中に二人はこっそり抜け出した



「わぁ…!ユーリ、きれいだね!」

リーフは目を輝かせながら言った

初めて『外』で眺める満天の星空
家の窓から眺めるのとは比べものにならないくらい広大で美しかった

「ほんとすごいな。あの星、今日もまぶしいくらいに光ってるな」

ユーリは一際まばゆい輝きを放つ星を指差した

「りりのあかぼし」
「え?」
「お母さんがおしえてくれた。空で一番明るくひかる星なんだって」
「へぇ、一番星かぁ」
「…あのね、ユーリ、わたしね―」

リーフが何かを言ったその時、風が吹いた



―優しく、だが強く吹きすさぶ風



―濃い黒髪と薄いクリーム色の髪がなびく



―そして彼女はにっこり笑い、まだ拙いながらも旋律を紡いだ



*‥*‥*‥*
「う…」


意識が浮上すると共に体中のあちこちに痛みがはしる
あれだけ派手にやられたのだ
きっと痣だらけだろう

(さっきのは…夢、か)

目は開けないまま、寝返りを打つ


昔の―幼い頃の夢を見るなんて珍しい事もあるものだ
最近になって見る事はあまりなかったというのに

(あの後、母さんにはこっぴどく叱られたっけ)

さすがは騎士だけあって人の動く気配には敏感なようだ

二人が抜け出した事は最初からお見通しだったようで
家の前で仁王立ちをして待ち構えていたのだ

あの姿からひしひしと伝わる恐怖感といったら今思い出しただけでも相当だ

そしてリディアは二人の姿を発見するなりそれぞれの頬をひっぱたいて説教を始めた

心配した、とか
もし何かあったらどうするの、だの
母親らしい我が子を心配する内容の説教だったが


そして鉄拳制裁と長い長いお説教の後に彼女は微笑んで言った


―今度はお父さんも連れてみんなで行きましょう、と


(…らしくないのはオレも、か)

ユーリは沸き上がる切ない感情を振り払い、起き上がる
そう、今は過去を思い起こし、感傷に浸っている時ではないのだ

「やっとお目覚め?」

薄い壁を隔てた先から声が聞こえた
男―中年の男性のようだ

「ああ。体中痛くて気分はあまり良くないけど、な」

ユーリは脇腹を押さえながら顔をしかめた
普段はそこまで痛みはしないのだが今回はかなりひどい

もしや、いつもより倍増しでやられたのではないか?

「ったく、すぐに戻るはずがこんな所で十日も寝泊まりかよ。のんびりしてたら下町が湖になっちまうよ」
「下町…。ああ、聞いた聞いた。水道魔導器<アクエブラスティア>が壊れたそうじゃない」
「こんな所で油売ってたらたらリーフになんて言われるか…」

一匹だけで戻ってきたラピードで大体の事情を察して怒りを煮えたぎらせるリーフの姿が目に浮かぶ

帰ったら箒でタコ殴りにされたあげく、蒼破刃を間髪入れずに何十回も喰らうのは覚悟しておいた方が良さそうだ

「リーフってリーフ・フェンリス?」
「おっさん、リーフを知ってるのか?」
「なんせ、騎士団の聖騎士リディアの一人娘だからね、その筋じゃあ有名よぉ」

そして彼はこう続けた

「見る者全てを魅了する鋭い剣さばき!舞うような身のこなし!実力もさることながら騎士団長の補佐役だって務めてた騎士にとっちゃ憧れの存在よ」
「ふーん…」

リディアがそれなりの地位だったのは彼女本人から聞いていた

ユーリが騎士団にいた頃もリディアの事は騎士達の間で語り草になっていた
それだけ彼女が素晴らしい功績を騎士団に残した、という事だろう

「彼女の素晴らしい能力は娘にもしかと受け継がれている、ときたら有名にもなるでしょ」

確かに、リーフの剣の腕は下手な騎士よりも多少優れているかもしれない

アデコールやボッコスも彼女の事をやたらと気にかけており
騎士団に勧誘する姿を多く見かけていた気がする

もちろん騎士が苦手…というか、あまり好きではない彼女は当然のように断っていたが



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ