ヴェスペリア連載小説

□旅立ちの朝
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―生まれた時からずっと一緒だった

二人で一緒に、血は繋がってないけど、本当の兄妹のように育ってきた

お互い、傍にいるのが当たり前だったからいつまでも同じ道を一緒に歩いていけるものだと思い込んでしまっていた




『…そう』

ユーリの言葉を聞いたリーフはただそれだけ言った

『何も、言わねえの?』
『言ってほしいの?』
『質問に質問で返すなよ…お前、実はめちゃくちゃ怒ってるだろ』
『怒ってないもん』

口を尖らせて、頬を膨らませて、そっぽ向いてる人間の台詞ではない

ユーリは思ったが敢えて口に出さずに胸の内に秘めておいた

『…黙って騎士団の入団試験を受けたのは謝る。けど、オレ、お前や下町のみんなを護りたいんだ』
『…………』
『騎士が危険な仕事だってのも解ってる。リディア母さんみたいな事がないとは言い切れない。けど、オレは大丈夫だから』
『ユーリ…』
『ちゃんとお前の所に帰ってくるから』



子供は成長し、やがて大人になる
そして独り立ちをする

誰でもいつかはその日はやってくる



『…頑張って、いってらっしゃい。フレンに迷惑かけちゃ駄目だからね』


だから笑顔で彼を見送った
彼の旅立ちを、想いを止めてはいけないから



けれど、それは彼がもう二度と手の届かない場所へ行ってしまった瞬間だった



*‥*‥*‥*
「ん…」

リーフは肌寒さにふるり、と身震いした

(夢…)

ぼんやりと焦点の定まらない瞳で天井を見る

(昔の夢、なんて…。でも、あの時の夢じゃなくても良かったのに)

リーフはむくり、と起き上がって窓辺から空を見上げる
と、太陽の代わりに月が空の真ん中で輝いていた

どうやら自分でも気付かないうちに疲労が溜まっていたのか、ぐっすり眠ってしまったらしい

(水が…)

リーフは広場の噴水を見た

溢れる水の勢いはだいぶ収まっているものの、まだ気を緩めることは許されない

(あともう少し…お願い、ね)

ポケットから『お守り』を取り出して小さく揺らした

紐で結ばれた小さな宝石と鈴がちりん、と音を鳴らして月明かりに照らされてほのかに光った

リーフの手作りであるこのお守り
実はユーリとフレンとのお揃いの品だ

同じデザインで色違いの物を騎士団の入団祝いとして二人に送っている

騎士団入りを告げられたのは入団式の前日だった為、頑張って夜なべして間に合わせて完成させた

―ちなみに

ユーリは黒
フレンは白
リーフは銀

それぞれの合いそうなイメージカラーを基調としている

材料は素材屋で見つけた物だ

店主いわく持っていると魔よけになるとか持ち主を危険から守ってくれるとか


それならば、とリーフは自分の分も含めて三つ作ったのだ



三人の友情の証として
二人の無事を祈るお守りとして



「さて、と」

お守りを両手で包み込んでそっと目を閉じた

「早く、帰ってこい。バカユーリ」



*‥*‥*‥*
刃と刃がぶつかり合い、閃光がはしる

ユーリは間合いを取って切り込む機会を伺うが
彼は本能のまま、突進するかのように切り付けてくるので、こちらに反撃の機会を与えてくれない

「人違いだっつの!」
「死ね」
「ちったぁ人の話、聞いた方がいいぜ?」
「ザギだ。オレの名前覚えとけ、フレン」
「フレンじゃねぇ…って聞けよ!!」

繰り出される連撃に応戦しつつ、ユーリは自分がフレンでない事をザギに認識させようとするが、彼は聞く耳を持たない

「くくくく…。何だよお前!」
「お前こそ何だよ」
「オレはお前を殺して自らの血にお前の名を刻む!」
「それ最高に趣味悪いな」

ユーリはザギの半ば狂った言動に溜め息をつき、振り下ろされる刃を防ぐ

「くっ…?」

ついさっきまで軽々と防げた攻撃が今ではずん、と重く感じる

(こりゃ、やべえな…)

無鉄砲とも、無計画とも見える攻撃を受け止めているうちに体力が削がれているのだ

このまま長期戦に縺れ込んでしまうと分が悪い

「ちっ」
「わたしもお手伝いします!」

苦戦するユーリの傍へ少女が寄る

「来るなッ!!」
「でもっ!」
「よそ見してんじゃねぇぇっ!!」

ザギは勢いをつけてユーリの懐に潜ってきた

少女に一瞬でも気を取られてしまったせいで反応が遅れてしまい

何とか少女を庇いながら受け身を取るも、左腕に傷を負ってしまった

「ユーリさん!!」
「う…」

ユーリは激しい痛みに床に片膝をついてしまった
切り処が悪かったのか、次々と流れる血が腕を伝い、絨毯に鮮やかな赤い染みを作った

「お前の力はそんなものか!?簡単に終わらせてくれるな!こんな楽しい戦いは久しぶりなんだからよぉ!」

早く立て、とザギは促す

「ユーリさん、今、術で―」

少女の白く、細い指がユーリの腕へ伸ばされ―ようとした時だった




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