ヴェスペリア連載小説

□行く手を阻むもの
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帝都の外へ出たユーリ達はルブラン達に追いつかれないように、とにかくひたすら走った

途中、魔物に何度か遭遇したが
リーフが魔術でまとめて倒してくれたのでユーリ達はそのまま走るスピードを緩めずに進む事が出来た

「はぁはぁ…、そろそろ、いいんじゃない?」

リーフは立ち止まり、前を先行していたユーリに言った

「そう、だな。いくらしつこいあいつらでもここまで来ればしばらく追ってこないだろ」
「エステル、大丈夫?」
「は、はい。少し、息が…でも大丈夫です」

リーフは自分が今まで来た道を振り返る

まだ見える位置にはあったものの、随分と小さくなっていた

「帝都がもうあんな遠くに…」

リーフは目を閉じて大きく息を吸い込み、ゆっくり吐いた
ほてった身体に優しくそよぐ風はとても心地良かった

(私、本当に結界の外に出たんだ)

どこまでも続く長い道
先が見えなくて
何があるか分からない

普通の人ならば怖いと思ったり
不安を感じるだろう
しかし、リーフはその逆だった


この先には一体何が待っているのだろう
どんな出来事が起こるのだろう


道の先にあるであろうまだ見ぬ未知へ胸を膨らむ一方だ

「すごい…世界ってこんなに広いんですね。帝都も広いと思ってましたが、外は比べものにならないくらいすごいです」

リーフの隣で彼女と同じようにエステルは目を丸くさせて感動していた

「そうだね。私も結界の外に出るのは初めてだけどこんなにすごいだなんて…っくしゅ!」

「大丈夫です?」
「うん、平気よ」

先日のような全身ずぶ濡れ、とまではいっていないものの、若干しっとり濡れている

ここに来るまで間に身体がすっかり冷え切ってしまったのだろう

早く身体を拭いて着替えないと、風邪を引いてしまうかもしれない

「どこか落ち着ける場所はっと…」

ユーリは辺りを見渡して、手頃な場所を探す

「ワン!」

ラピードは何かを嗅ぎ付けたのか急に吠え、駆け出した

「ラピード?」

ユーリ達は顔を見合わせ、ラピードの後ろを追った

するとその先には小さな馬車が一台とそこに若い男女が二人いた

「……む……」
「あら?いらっしゃいませぇ。旅の方ですね?」

少女はにっこり笑顔で挨拶をした

「ええ、そうだけど。貴方達は?」
「…旅籠『冒険王』だ…」

青年は無表情でぼそぼそと答える

「もう、お兄ちゃん、もっと愛想よくしてよぉ」
「…すまん、カレン…」
「ホント、ごめんなさい。わたしはカレン、こっちはリッチ」
「旅をしながら宿を提供してるんです?」
「しっかし、冒険王、とは大きく出たもんだ」
「先帝の弟君レギン皇弟殿下が冒険好きでそう呼ばれてましたね」
「ええ、まさにレギン殿下からいただいた名前なんです」
「……我々が尊敬するお方だ」
「へえ、それはまた恐れ多いわね…っくしゅ!」

リーフは本日二回目のくしゃみをした
それに触発され、続けて何回もくしゃみを連発してしまう

「あらあら、まあ、大丈夫ですかあ?」
「ちっと、ごたごたでずぶ濡れになってな。服はあるから着替えさせてくれないか?」
「もちろんですぅ。あ、お疲れなら一泊いかがですか?」

ユーリはうーん、と考えた
これだけ帝都から離れればルブラン達は深追いは出来ないだろうし、増援やら許可やらの申請で追い付くまでにしばらくはかかる筈だ

それより、遠出に慣れていないエステルや昨日から動きっぱなしであろうリーフをひとまず休ませた方がいい

「そうだな、休んでおくか」
「ありがとうございますぅ。では、こちらへどうぞぉ」
「……ゆっくり休め……」
「もぉ!お兄ちゃん!ごめんなさい!」
「い、いえ…」

カレンはリーフを連れて馬車の中へ
リッチは予備の薪を集めてくると言ってどこかへ行ってしまった

残されたユーリとエステルとラピードはリッチが起こした焚火を囲んで待つ事にした

「運良く休める場所が見つかりましたね」
「だな。リーフは昔から運だけは良いから」

―オレと違って

心の中でそう付け足した

「そういや、エステルは前にあいつと会った事あるって言ってたよな?」

ユーリは気になっていた事を話題に出す

「昔に何回か、です。リディアが時々連れてきてくれたんです。私の話し相手に、と」
「母さんが…」
「リーフはその日にあった出来事や友達の事、下町の事をたくさん話してくれたり、歌も聴かせてくれました。お城から出れないわたしにとってリーフは歳の近い、大切な友達でした」

昔を懐かしむように彼女は言う

リディアはリーフに会わせたい相手がいる、と言っては度々彼女を連れて出掛けていた

だが―

(まさか城に連れて行って、このお嬢様に会わせる為だったとはな)

せいぜい、市民街に住んでいる友人あたりだと思っていたユーリにとっては貴族に会わせていた、という事実はちょっと衝撃的だった

「けど、人魔戦争が始まって、リディアが戦場へ赴いてからはリーフに会う機会も無くなってしまいました…」

突然エステルが黙り込んで下を向いてしまう
心配になったユーリが覗き込もうとした時―エステルはがばっと顔を上げた


「でも!まさかそれきり会えなくなってしまうばかりか、あんな事になってしまうなんて…リディアが亡くなってしまうなんて…!」

エステルは唇を震わせた
思い出すだけでも悲しいのか、瞳には涙が滲んでいる

「…」

ユーリは何も言わず、揺らめく炎を見つめる瞳をすっと細めた




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