ヴェスペリア連載小説

□旋律の力(後編)
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それは、ひとつめの目醒め―



*‥*‥*‥*
長は街の広場で街の住民達と集まって何か話していた
いつまた魔物が襲ってくるとも限らないので今後の対策を練っているようだ

「あの、お取り込み中すみません。ルルリエの花びらを持っていませんか?」

エステルは遠慮がちに長へ声をかける
ルルリエの花びら、と聞いた長は目を丸くした

「誰からそれを?確かに持っていますが…」
「パナシーアボトルの材料に使われるとよろず屋のご主人に聞きました。ハルルの樹を治す為に必要なんです」
「そうでしたか…」

しばらくお待ちください、と家の中から一枚の花びらを持ち出してきた

「ルルリエの花びらはハルルの樹に咲く三つの花の一つ。それを半年間陰干しにして作る貴重な物。最後のひとつですが、樹が蘇るのであれば」

と、淡い桃色の花びらを手渡した

「ありがとうございます」

エステルは花びらを壊れ物のようにそっと手の平で包み込んだ

「綺麗な桃色…エステルにそっくり」
「リーフ!」

顔を真っ赤にしてるエステルがかわいらしくて
リーフはくすり、と笑ってしまった

「あとはニアの実とエッグベアの爪だね。クオイの森に行こう」



*‥*‥*‥*
道が入り組んでいる森でも二度目になると大体の道筋は覚えていたので進むのは割と簡単だった

植物が生い茂る険しい獣道でもユーリが自ら先頭に立って踏み慣らして進んでくれているおかげか、歩きやすかった

「リーフの術ってすごいよね。ボク、術とかで種を芽吹かせたりするのって初めて見たよ」
「さっきの歌の事?」
「うん!あんな魔術使えたら植物は絶対に枯れないし、便利だよね」
「万能じゃないわよ。あくまで流れを汲み取って治したり、成長する手助けをしてあげるだけ。死んでしまった命はどうする事も出来ないわ」
「ふーん…、でも今まで色んな場所に行ったけどリーフみたいな魔術を使う人には会ったことないや。魔導器<ブラスティア>が特別なのかな?」
「これは普通の魔導器よ。魔術は魔導器がなくても物心ついた頃から使えたから」

リーフの言葉を聞いたカロルが石のように固まり、辺りには沈黙が流れる

「ええっ!?」

しばらくしてようやく我を取り戻したカロルが驚きの声を上げる

「どういう訳か、私は魔導器無しで術技が使えるってコト。不思議よね」
「…………」

サラっと説明するリーフとは対照的にカロルは口をぱくぱくさせるだけ

彼女の口から告げられた事実があまりにもイレギュラー過ぎて言葉にならない、といった感じだ

「あ―…えっとさ、疑問に思ってたんだけど、三人…ラピードもなんだけどなんで魔導器持ってるの?普通、武醒魔導器<ボーディブラスティア>なんて貴重品持ってないはずなんだけどな」

まだ驚きを隠せないながらもカロルは疑問を口にする

「カロルも持ってんじゃん」
「ボクはギルドに所属してるし、手に入れる機会はあるんだよ。魔導器発掘が専門のギルド、遺構の門<ルーインズゲート>のおかげで出物も増えたしね」
「へえ、遺跡から魔導器掘り出してるギルドもあるのか」
「うん。そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器を個人で入手するなんて無理だよ」
「古代文明の遺産、魔導器は、有用性と共に危険性を持つため、帝国が使用を管理している、です。魔導器があれば危険な魔術を誰でも使えるようになりますから無理もないことだと思います」
「やり過ぎて独占になってるけどな」
「そ、それは…」

ごもっともなユーリの言葉にエステルはどこか気まずそうに口ごもる


魔導器は人の潜在能力を引き出す為の鍵のような物で
ある理論では魔導器が無くても特技や戦闘を習得できたり、魔術が使える…らしい

しかし、現状では魔導器がないと魔術や治癒術が全く使えないので真偽は定かではない

リーフのように様々な術を使いこなせる人間は常識からは通常考えられないので
魔導器を持たない限り危険性は無い、と帝国側も思っているのだろう

「で?実際のとこどうなの?なんで持ってんの?」
「私が持っている魔導器はお母さんの形見よ」
「あ…ごめん、もしかして聞いちゃいけなかった?」
「別にいいわよ。もう大分前の話だし。お母さんはね、帝国の騎士だったの。任務中に亡くなった…って聞いてるわ」
「そっか。で、ユーリは?」
「オレ、昔騎士団にいたから、やめた餞別にもらったの。ラピードのは、前のご主人様の形見だ」
「餞別って、それ盗品なんじゃ…」
「そうね。ユーリの手癖の悪さは筋金入りだもの。はっ、もしかして私の知らない所で実は…?」
「おいおい、人聞きの悪い事言うなよ」

ユーリは反論するが、リーフは何も言わず、微笑を浮かべるだけだった

「で?で?エステルは?」
「あ、わたしは、ええと…」
「貴族のお嬢様だもの。魔導器のひとつくらい持ってて当たり前でしょ?」

どう説明しようか困った顔をしていたエステルにリーフが横から助け舟を出す

エステルは安心したようにほっと胸を撫で下ろした

「あ、やっぱり貴族なんだ。ユーリと違ってエステルには品があるもんね」

悪気はないのだろうが直球過ぎるカロルの言葉にリーフは思わずくすり、としてしまった

「お前、今笑っただろ?」

「ふふ、気のせいじゃないかしら?さ、早くエッグベアの爪を取って帰りましょ。こんなところでずっと話してたら日が暮れちゃうわ」
「そうだね。こんな薄気味悪い森にあんまりいたくないもんね」





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