第1部

□謳う少女
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*‥*‥*‥*
キノは門番からもらった地図を広げた

これからどうするかは腹ごしらえしてから決めようとの多数決の決定でレストランを探していた
どこに行くかは場所はお任せする、と言ってサヤはエルメスの上で足をぶらぶらさせながら空を流れる白い雲を目で追っていた

「ふわー…」

あれだけ寝たというのに大きな欠伸をひとつ

『おや、サヤさんはもうお眠の時間ですかな?』
「むぅ―…天気がいいからちょっと欠伸が出ちゃっただけ」
『それが眠いって事だよ』
「違うもん」
『仕方ないなー。じゃあ、僕の上でゆっくりお休み』
「違うったら」

キノは賑やかなやり取りを聞きながら地図を指でなぞる

目的地までの道を把握した後、地図を小さく折り畳んでコートの下にしまい、エルメスに跨がる

出発するのを察したのかサヤはキノの背中にぎゅっと抱き着く

突如として訪れた柔らかく、温かい感覚にちょっぴり固まってしまう

「どうしたのキノ?」
「いや…行こうか」

いつもなら一人なので後ろに人がくっついているというのはやはり慣れないものがあった

だが、嫌という訳ではなかった
むしろその逆だ

(何なんだこの気持ちは…)

そしてキノは改めて考えてしまった人の体温はこんなに心地良かったものか、と



*‥*‥*‥*
「うーん、満腹!美味しかったね」

ぐっとサヤは両手を上げて伸びる

国の名物が食べられるというレストランで食事を済ませた二人は街の中心にある広場の噴水に腰掛けて休憩をとっていた

『サヤも大食らいの部類に入ってたんだね』
「そう?」
「ああ。一体何人前食べるのかと思ったよ」
「キノだって結構食べてたじゃない」
「まあね。美味しかったからつい」

そこで二人は顔を見合わせて笑った

「これからどうするの?」
「もう少し休んでから宿を探そうかな。街を見るのはそれからにしよう」
「じゃあ、時間はまだたくさんあるのね」

意味ありげな発言をする
何かあるのか、とキノが聞くと

「謳おうかと」

せっかくだしね、と立ち上がる

大きく息を吸って吐いて深呼吸をする
それを何度か繰り返した後息を吐き出すタイミングで音を紡ぎ出した

ゆったりとしたテンポで始まった歌は穏やかなメロディを奏でる


『夜明けの静けさに目を覚ます
一歩歩めば光の雫は足元を照らし
やがて満ちた光の輝き受けて蒼い空は広がっていく



サヤの歌声を聞いた通行人が一人、また一人を足を止める
そうしてやがてキノ達の周りには多くの人が集まっていた

人々は少女の奏でる歌にうっとりと聴き入った
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