第1部
□心と記憶繋ぎ止めるカタチ
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日常茶飯事なのか慣れた手つきで商品が飛ばされぬように守る商人達の一方でサヤは砂埃が目に入らないように閉じてなびく髪を押さえているのでいっぱいいっぱいだった
キノは咄嗟にサヤの後頭部に手を添え、自分の胸へ引き寄せてサヤの盾となるように強く抱きしめた
「キノ!?」
「じっとしてて」
耳元で低く囁かれ、サヤは妙に意識してしまった
(こんな近くにキノが…)
とくんとくん、とキノの心臓の動く音がダイレクトに伝わり
こちらの音も伝わってしまうんじゃないかと、どぎまぎしてしまった
「…大丈夫かい?」
風が止むとサヤの乱れた髪を直してやりながらキノは聞く
「う、うん。すごい風だったね…………ありがとう…」
頬に熱が集まっていくのを嫌でも感じてしまい
赤くなっているであろう顔をキノに見られたくなくてサヤは俯いた
『ひどいよキノー…僕もちゃんと守ってよ』
「エルメス!」
「ごめんごめん。サヤが飛ばされそうになったからつい」
キノがサヤを庇う時にエルメスのハンドルを離してしまったせいで地面に突っ伏してしまったのだ
自分の扱いに少々ふて腐れているエルメスの車体を二人で仲良く起こした
*‥*‥*‥*
「お風呂空いたよ。サヤも入ってきな。すごく広くて快適だから」
「うんっ」
ベッドに腰掛けてぼんやりしていたサヤは浴室から出てきたキノの姿を見るなりとてとてと駆け寄る
なんだか姉妹みたいだなあ、とその様子を眺めていたエルメスはある事に気付いた
『サヤ。ペンダントはどうしたの?』
「え?」
『ほら、蒼い石のペンダント。いつも着けてるじゃん』
エルメスに指摘され、サヤは慌て首元をまさぐる
さぁー、と顔の血の気がみるみるうちに引いていく
「ない…ペンダントが…ないよ…」
青ざめた顔でサヤは言った
「そんなっ!一体どこで!?」
わたわたと同じ場所を行ったり来たりと落ち着きの無い動作をしつつ記憶を探る
肌身離さず着けている物だから落とせばすぐに気付くの筈なのに何故だろう、と
『もしかしてお昼、突風が吹いた時にどうかしちゃったんじゃない?』
サヤは瞳を数回瞬きさせ、そんな、信じられない等とぶつぶつ言っていた
強い風に吹かれた拍子で鎖が切れてしまったというのも有り得る
「私、探してくるっ!」
ならあの場所へ行けば見つかるかもしれないと、部屋を飛び出そうとしたが、今まで傍観者だったキノに腕を掴まれて引き止められる
「もう外は暗いからやめた方がいい。それにこれだけ広くて人も多い国だから誰かに拾われてどこかで売られてしまったかもしれない」
「……」
サヤは不満そうにキノを見た
どうも諦めがつかないらしい
「ペンダントくらいならまた買えばいいじゃないか」
「あれは…あのペンダントは私にとって大切なものなの!兄さんがくれたペンダントなの!」
一瞬だけキノの顔色が変わったが、すぐにいつもの冷静な表情で言った
「そうして何かに執着するのは良くないと思うよ。情に流されて周りが見えなくなる」
「じゃあ…キノはないの?大切なものはないの?」
「無いよ。何も」
淡々とした様子で答えた
「だったらキノに私の気持ちなんて分からない!どれだけ大切で、どれだけ大切な想いが詰まってるかなんて…」
「そうだね。分からないよ。ボクは君じゃないから」
キノは冷たく、突き放すように言い放った
その時、サヤの内で何かが切れて熱いものが込み上げた
「キノは優しい人だと思ってたけど違かったんだね。そうやって―」
そして何か言いかけたが途中ではっとしたように口元を手で抑え、言葉を遮った
キノから視線を反らし、ふるふると首を振ってもう一度彼女に向き直った
「…人で無し!」
腕を掴まれた手を強引に振りほどいて今度こそ部屋を出て行った
キノは無言のまま、乱暴に閉じられたドアを見つめていた