第1部

□猫の国
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*‥*‥*‥*
ふわふわの毛にぴん、とした三角形の耳
ゆらゆらと動く長い尻尾
くりっとしたつぶらな瞳

思わず抱き着きたくなるような愛らしい生き物が道や建物の屋根などの至る所でそれぞれ気の赴くままに行動していた

「きゃー、すごーい!猫がたくさんいるよ!」
「………………」

思わず抱き着いたサヤを見たキノは自分の目を疑った

記憶が正しければつい数秒前まで彼女は歩く気力すらないくらいに萎れていた筈なのだが今はどうだろう?

普段と同じ元気いっぱい、新しいもの、素敵なもの大好き、な彼女に戻っているではないか

「あらあら、旅人さんは猫がとっても好きなのね」

どうにもギャップが激し過ぎるせいで変化についていけずに頭をキノ抱えていると、その様子を傍で眺めていた一人の若い女性が声をかけてきた

「この国はずいぶんと猫の数が多いんですね」
『国民の人口より猫の数の方が多かったりしてー』
「その通りですよ」

エルメスが冗談のつもり言ったのに女性はさらりとすごい答えを出した

「我が国では猫は神聖な動物として大切に保護されていますから」
『神聖な?』
「この国に残る昔の物語等に彼らは守り神として、または夢と現、過去と未来を繋げる者として登場しています。実際に現在も猫を通じて未知の体験をした方の話もよく聞きますよ」

そう説明する女性の姿はどこか誇らしげだった



*‥*‥*‥*
猫を轢いてしまったらいけないのでこの国には車両全面禁止となっている

そんな訳でキノはエルメスを押して徒歩で移動せざるをえなかった
走れないのはつまらないけど仕方ないか、と彼も渋々納得してくれた

「可愛いー!」

それから行く先々で多くのの猫に巡り会い
その度にサヤは猫達の集団に突っ込んでいった
人懐っこいのか彼らは逃げずにサヤへ近寄る

「ふぁ―‥幸せ…」

サヤはたくさんの猫達に囲まれ、夢心地でうっとりとしていた
一方、傍観していたキノはというと彼女の腕に抱かれている猫が少しだけ羨ましいとか思ったり

『今からでも猫耳着ける?』

エルメスの言葉に無言という答えで否定したが
サヤに抱き締められ、撫でられる自分、という光景を想像して不覚にも揺らいでしまったキノだった



*‥*‥*‥*
「サヤは猫が好きなんだね」
「うんっ。可愛いものは何でも好きだけど、猫は特別好き。キノは?」
「うーん、これといって特別に好きなものはないかな」
「それは…執着し過ぎるとよくない、から?」

キノはあまり不自由しないしね、と頷く

「でも、私は何かを好き、とか綺麗、とかっていう気持ちとかカタチを大切にしたい」

胸元で揺れる蒼い宝石を両手で壊れ物を扱うように優しく包み込む

「せっかく旅をしてるんだもん。楽しむ要素は多い方がいいよ」
「ボクは別にある程度あればそんなに必要ないと思うけど…」
「そうだっ。ないなら私とこれから見つければいいんだよ!ね、そうしよう。うんっ、決まり!」

サヤはキノの言葉に耳を傾けないばかりか
強引に話を明後日の方向へ進めていき
名案だ、とばかりに言った

「急に言われてもなぁ…」

キノは困ったようにぼやいた
既にキノの好きなもの探しに向けて頭がいっぱいのサヤに届く事はなかったが
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