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□カルマの坂
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ある時代ある場所、乱れた世の片隅

今よりほんの少し前シティと切り離されたサテライト、その乱れてしまったサテライトの片隅


少年は生きるため、盗みを覚えていった。

少年、クロウはそんな世界で生きるために、盗みを覚えていった。


醜く太った大人達などには決して追いつけはしない風のように

自らの欲などに溢れてしまった奴らなどには決して捕まえられない風のように


今、空腹を満たすのがすべて

「今は俺やガキ共の腹を満たすのが最優先なんでね!」


是も非も超え、ただ走る

良いか悪いかなんて考えずに、ただ走る


清らかな、その心は穢れもせず罪を重ねる。

自らを二の次とし、周りの人を助けようとするその心は、穢れも知らず罪を重ねる


天国も地獄さえも、ここよりましなら喜んで行こう。

「天国でも地獄でも、こんなとこより少しでもましならそっちに行くのにな」


「人は皆平等などと、どこのペテン師のセリフだか知らないけど」

「人が皆平等か・・。
そんなこと言った奴にココを見せてやりてぇな」



パンを抱いて逃げる途中、すれ違う行列の中の

皆に分けるための食料を持って逃げる途中、
すれ違ったざわついている集団の中にいた



美しい少女に目を奪われ立ちつくす。

自分と同い年であろう可愛らしい女の子に目を奪われて立ちつくした。


遠い町から売られてきたのだろう。

サテライトの他の地区から来たのだろう。


うつむいているその瞳には涙が。

俯く彼女の目には涙が。


金持ちの家を見とどけたあと。

デュエルギャングであろう集団を見とどけた後。


叫びながら、ただ走る。

「・・・っ、くっそ!」



クロウはただ走った。




清らかな、その体に穢れた手が触れているのか。

純粋な彼女の体に、穢れた手が触れているのか。


少年に力はなく、少女には思想を与えられず。

今のクロウに力はなく、あの少女には自らの意思というものを与えられず。


「神様がいるとしたら、なぜ僕らだけ愛してくれないのか」

「神様がいるんだったら!
どうして俺達だけを助けてくれねぇんだよ!!」



夕暮れを待って剣を盗んだ。

夕暮れを待ってデュエルディスクを腕につけ、



護身用にと・・ナイフを盗んだ




重たい剣を引きずる姿は、

別に重いわけではないナイフを持って歩く彼の足は、
まるで石にでもなったかのような重い足取りで、



風と呼ぶには悲しすぎようカルマの坂を登る。

いつものような、風と呼ぶには悲しすぎるだろう。


業という名の坂を登る。




怒りと憎しみの切っ先をはらい、

デュエルとは言え、
彼の瞳に映し出される怒りと憎しみの切っ先はとても鋭く、



血で濡らし辿り着いた少女はもう、

その場にいた全員に勝ち、辿り着いた彼女はもう、


こわされた魂で微笑んだ。

汚されてしまったのだろう

壊された魂で微笑んだ



微笑んでくれた。




最後の一振りを少女に。

デュエルではない。

最後の一振りを、彼女に。





「ごめん、な?」



泣くことも忘れてた。空腹を思い出してた。

涙を流すことも忘れ、

ただクロウは空っぽになったような体に空腹を思い出していた



痛みなら少年もありのままを確かに感じてる

別に傷を負ったわけではない


だがクロウは感じなければならないすべての痛みを
ありのまま感じた




―お話は、ここで終わり。ある時代ある場所の物語―

〜お話は、ここで終わり。
今よりほんの少し前の


サテライトでの、物語〜









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