名作パロ
□100万人喰った志波(後)
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その日は、激しい雨が降っていました。
そういえば、今朝家を出る前につけていたテレビで、台風だか荒波だかの警報テロップを見たような気がすると、桃色の髪の後輩は思い出しました。
「………」
桃色の髪の後輩は、志波の浮気癖にとうとう気付いてしまったのです。
そして志波の節操のなさに苛立ち、文句を言いに行ったのです。
けれど、志波の顔を見てしまうと、言いたかった言葉はうまく喉から出てきませんでした。
逃げ出すように志波の前から走り去ったのち、タクシーを拾って乗り込むと、桃色の髪の後輩はぶっきらぼうに運転手に言いました。
「行き先は別にどこでもいいから、とにかくここから離れてくれますか」
運転手は少し驚きましたが、バックミラー越しに見た桃色の髪のその少年が、目尻を赤く染めていたのに気付くと、何も言わずに車を走らせることにしました。
海沿いの道を、タクシーは走りました。
桃色の髪の後輩は、ぼんやりと荒れ狂う海の様子を眺めていました。
(好きだって言ってくれた先輩が、いまは、もう……)
彼の長いまつげは、微かに濡れて、震えていました。
(あの人は、僕の知らないところで何人の男を抱いてきたんだろう……)
窓を叩く激しい雨音に、傷付いた心は、さらにボロボロに壊されていくようです。
彼の大きな瞳にじわりと滲んだ涙が、今にも頬を伝おうかとした、そのときでした。
「しょうたぁぁぁぁぁん……!!」
「……!!」
海の向こうから、耳慣れたテノールボイスが響いてきたのです。