名作パロ
□勃ってごらん
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それは夏の始まりの、ある夕過ぎだった。
部活動が終わり、帰ってくると……
僕の家の玄関の前で、見覚えのある人物……氷上先輩が、打ちひしがれていた。
「えーっと……氷上先輩ですか?」
一瞬ためらいはしたけど、玄関のドアを開けるのにはその人の存在が邪魔でもあったので、僕は声をかけてみる。
「どうしたんですか?僕の家の前で。もしかして、先輩。僕に何かご用ですか?」
精一杯にっこりして、振り返らない氷上先輩の肩をトントンと叩いてみる。
ずっとその場にうずくまって顔を伏せていた氷上先輩が、ようやく僕を見上げた。
「ああっ…、天地君…」
「先輩…?」
氷上先輩は、泣いていた。
何があったというんだろう。
もうずっと前からひどく泣いていたかのように、その人の目は腫れている。
「どうかしたんですか…?」
いくらなんでも心配になって尋ねると、氷上先輩はガバッと立ち上がり、いきなり僕の両肩に手を置くと、激しく揺さ振って哀願し始める。
「僕をっ……僕を助けてくれないか!?これは君にしか頼めないことなんだ……!!」
「えっ…、ええと……」
「この通りだ、天地君!君、僕をっ…、僕を救ってくれないか…!?」
「あ……あぁ、はい…」
氷上先輩があんまり大きな声を出すものだから、正直言って僕は近所の目が気になった。
これ以上大きな声で騒がれたら迷惑だし、とにかく室内に上げてしまおうと、肩に上がった氷上先輩の手を握りながら、にこにこ笑ってみせる。
「もちろん。僕が氷上先輩のためにできることなら、何でも協力しますよ。話を聞きますから、どうぞ、上がってください」
(……ああ、めんどくさい。)
もちろん、それが本音だ。
(今夜は家族が誰もいないから、8時から志波先輩が遊びにくる約束なのに……)
チラッと脳裏にそんな考えがよぎった。
氷上先輩を部屋まで案内している途中、玄関に飾ってあった置き時計の針を目で確認しておく。
(まだ6時半だから大丈夫だけど…。志波先輩が早めにくるかもしれないし、30分くらい話を聞いたら、早く帰ってもらわなくっちゃ……)
そんなことを考えながら、僕は氷上先輩の相談を受けるべく、その人と二人きりで室内に入った。
このあと、妙なお願いをされるだなんて……
全然想像していないままに。