NightMare

□正義の復讐〜氷上編〜
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昨晩、電話があった。
それはいつか“また連絡する”と言っていた、ウェザーフィールド君からだった。

『……例の件。準備バンタンやで。一番最初にキミに見せたいから、明日の夕方5時。ボクのマンションまできてくれへん?』


(例の件……準備万端。)

心当たりがない、などとは言わない。すぐにピンときた。


最後に彼と話したとき。
ウェザーフィールド君は確かに“志波君に復讐をする”と言っていた。

“彼の大切なものを壊す”と……

狂気に満ちた眼差しで僕に微笑んだウェザーフィールド君の表情が昨日のことのように思い出されて、胸騒ぎがした。


あの日のことを、僕は何度後悔したかわからない。

『天地君は……?』

志波君の大切なものを尋ねられ、僕はそう答えた。


その時の僕に、悪意なんてかけらもなかった。
ウェザーフィールド君が、その気になるとも思っていなかった。
天地君と志波君が、どの程度親密な関係であるのかという明確な情報を持っていたわけでもない。
ただ、それなりには深い間柄なのだろうという曖昧な知識……
それを何となく、口を滑らせて話してしまったんだ。

後悔したのは直後のことだ。
魔王のようなウェザーフィールド君の笑みに、僕は慌てて撤回しようとした。

確かな情報ではない。
彼等はやはり無関係かもしれない。

僕は繰り返し説明したけれど、それは後の祭りだった。
ウェザーフィールド君は、引かなかったんだ。

『……それやったら、詳しく調べてみるわ。探偵サン使えばきっとすぐやから。氷上クン。情報アリガト』

ニヤリと笑ったウェザーフィールド君の青い瞳が、あんなに冷たく見えたことは未だかつてなかったように思う。



「ハァ……」

昨夜は、電話を切ってからもしつこく続いた胸騒ぎに悩まされ、あまり寝られなかった。
落ち着かない気分のまま、とにかく僕は指定された時間にウェザーフィールド君のマンションを訪れた。


ウェザーフィールド君の部屋を訪れたとき。彼はこちらが拍子抜けするような柔らかな表情で、僕に微笑みかけた。

「いらっしゃい、氷上クン。待ってたで。ささ、入って入って」

「あ、ああ…。失礼するよ…」

招き入れられたマンションは、一人暮らしをするには広すぎると思われた。
設備のしっかりした高層マンションの最上階。
夜になれば、素晴らしい夜景が一望できるであろう大きな窓が、壁になって部屋を取り囲んでいる。
少ない家具も、すべてが上等の物に見える。

(そういえば……)

ウェザーフィールド君の父親は確か、海外の大きな会社で社長をしていたはずだ。
一体、何の会社の社長なのだろう。


「氷上クン、キョロキョロしてどないしたん?」

「えっ?ああ……すまない。あまりに立派なお宅だったものだから……」

「エヘヘー、ビックリした?」

「ああ。驚いたよ」

ウェザーフィールド君の無邪気な笑い方に釣られて、僕も少しだけ笑う。

その直後。注意を払っていなければ聞き落としてしまいそうな、小さな声。

「……ホンマにビックリするんは、今からやで?」

「えっ?」

ウェザーフィールド君はすぅっと目を細め、姑息な笑みで僕を流し見た。

「キミに見せたいもの。……コッチやから」

「………」

僕は真っ直ぐ、一番奥の部屋へ通された。

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