NightMare
□失意〜天地編〜
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僕は勝手に、佐伯先輩はちゃんと前戯をする人だって信じ込んでいた。
女の人を扱うときも、この人はきっとこうするんだろうと思う優しさが、佐伯先輩からは常に漂っていたし。
プリンスなんだから、そのくらい出来て当然だって思ってもいた。
大きな手で後ろ頭を支え、キスをしながら、流れをベッドに持ち込む。
耳たぶを甘噛みして、シャツの下に手を入れて……
胸元を愛撫する指付きは優しいのに、首筋を掠める息遣いはとても熱くて。
そういうドラマみたいなラブシーンを、この人は自然に演出できる人だと信じて疑わなかった。
(……それなのに。)
「ちょっ…、ちょっと待って……!」
どうして、僕はこんな目にあってるんだろう。
自分の上擦った声が、狭い密室で、空虚に響いていた。
「待って…!待って下さい!お願いっ!」
佐伯先輩は僕の声を一切無視して、いきなり後孔に自分のものをあてがった。
そのまま奥まで貫かれそうになり、柔らかい皮膚が奥に引きずられるようにして中にのめり込む。
「やだっ…!」
そんな強引なことを佐伯先輩がするなんて、衝撃だった。
僕は焦って、目の前の肩を押し返した。
「そんなに無理やりしたら…、切れちゃうから…!」
「………」
顔を上げたとき、ふと近距離で佐伯先輩と目が合った。
「あっ……」
その視線が雄っぽさを帯びているのに、理由もわからず、僕はドキッとする。
乱暴なことをされているはずなのに、まるでどこかで期待しているかのように、胸の奥では心臓が高鳴っていた。
(ぃ、やだ…って。本当に…)
そう思いながら、本当に拒絶しているのかどうなのか、僕は自信がなくなってきた。
ドキドキしている胸の音が、向こう側にまで聞こえてしまいそうな気がして、また、黙って僕は佐伯先輩の肩を押し返してみる。
「……何だよ?」
その反応をからかって笑うような、少し甘さのある声が耳元で囁いた。
「なんて顔してるんだよ」
「えっ?」
「散々生意気な口叩いといて、エッチは優しくされたいとか?」
「……ひゃっ!」
そのまま首筋にキスされて、自分でも大袈裟だってわかるくらいに腰が跳ね上がった。
「あっ…!いやっ…!」
そんな体の反応が恥ずかしくて、僕はこの場から消えてしまいたいような気分になる。
「イヤって顔してないだろ」
余裕のある声色。
佐伯先輩がそこで何かしゃべるたび、濡れた吐息がうなじにかかって、腹部の奥がぞくぞくしていた。
「やっ……」
(どうしよう。こんなの……)
「……いい加減さ、認めれば?口ではどんな正論言おうと、お前は淫乱で、節操なくて、体のほうは相手が志波じゃなくたっていくらでも感じるってこと」
「ちっ…、違っ…」
「違うんだ。別にいいけど」