まずいよ!勝己さん!!
□珊瑚礁で(1)〜佐伯編〜
1ページ/10ページ
じいさんは、勝手だ。
俺には何も知らせないで、珊瑚礁のアルバイトに、はね学のやつを雇ってしまった。
そいつは、志波勝己っていう俺と同学年の背の高い男なんだけど……
「佐伯」
「……何?」
「オレとおまえ。いま二人きりだな……ハァハァ…」
「………」
俺はこいつが、ものすごく苦手なんだ。
「……黙って仕事してろ」
ちょくちょく、俺のこと見ながらハァハァしてるし……
女性客には態度悪いくせに、男性客にお釣り渡すときとか無駄に手を握ったりして……
なんかわかんないけど、不気味なやつなんだよ。すごく。
とりあえず志波と目を合わせないようにして、俺は食器を磨いていたんだけど……
志波はそんな俺の背後に忍び寄って、
「……おまえ、はね学プリンスなんだってな?」
濡れた吐息が耳元にかかるくらい近くでそう囁き、じっとりとした手つきで俺の肩を撫でた。
「……やめろ!」
「何だ、そのウブな反応。……まさか、おまえチェリ…!いや……ハァ…ハァ……そ、想像しただけでどうにかなりそうだ…」
志波は何を想像したのか急に息を荒げ始めて、興奮気味に背後から俺を抱きしめると、髪の匂いを嗅ぎだした。
「わっ!何なんだよ…!?」
じゃれてるのか何なのか知らないけど、マジで勘弁……
志波の腕を振り払って、俺はこの日初めて志波を正面から見上げたんだけど……
「……!」
瞬間。自分の目を疑った。
「……お前!…それ…」
「何だ?」
何だ、じゃない!
お前は何でウエイトレスの制服を着てるんだよ!?
それって女物だろ!?
こいつがボーイの方より、ウエイトレスの方を着たがったのか!?
それともじいさんが間違ってコイツにコレを渡したのか!?
どっちにしろ、ありえないだろ!!
志波は当たり前のような顔で女性用のスカートから、筋肉質な脚をさらしている。
ちゃっかりストッキングまで履いているところが、なんか、すごくムカつく。
俺は信じられない気持ちで志波を睨みつけながら、ため息をついた。
「……言いたいこと山ほどあるんだけどさ。とりあえず……お前、その服、脱げよ」
イライラしながら言った俺の一言に、志波は目を見開いて驚いた。
「……!おまえ……いいのか……!?」
そいつは、ゴクリと唾を飲んで俺に聞いてくる。
いいように受け取るぞ。
おまえから誘ってくるなんてな。
とか、聞こえたような気もしたけど……気のせい、だよな?
「……いいからさっさと脱げよ。そんな格好で、珊瑚礁の店員ですって顔されたくないよ」
「本当に……いいんだな?」
「ああ。早くしろ」
「ハァハァ……そんなに急かされると、期待しちまうぞ……」
「は?」
……何なんだよ、こいつ!